戦没者遺骨 国はDNA鑑定完全実施を


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 県議会文教厚生委員会は沖縄戦戦没者の遺骨からDNA(遺伝子)抽出が終わるまで焼骨せずに保管することなどを、県が国に求めるよう要請する決議を全会一致で可決した。本会議でも全会一致で可決される見通しである。当然の要求であり、県は速やかに国に要請し、実現させるべきだ。

 本来なら県議会の決議などの前に国が主体的に取り組むべきことである。遺骨のDNA鑑定などによる戦没者の特定と遺族への遺骨返還は戦争を起こした国の責任であり、義務である。
 国は「識別できる遺品があり、部隊名簿などから遺族が推定できること」をDNA鑑定の実施条件の一つにしている。兵隊で名前のある遺品を持つ割合は5%に満たないとの指摘もあり、極めて高いハードルである。
 鑑定対象を抑えることを目的にしたような条件と言わざるを得ない。すべての責任が国にあることを忘れてはいないか。
 国がDNA鑑定を始めた2003年度以降、鑑定実施は50件にとどまっている。国の厳しい条件が足かせになっているからにほかならない。
 50件のうち身元が判明したのは4件、判明率は8%でしかない。が、ゼロではない。DNA鑑定実施条件のハードルを下げることで判明率は上がることが期待される。
 高温多湿の沖縄では遺骨の保存状態が悪く、鑑定に有効なDNAの抽出が難しいことは確かだろう。だが、現段階では難しくても将来的には可能になることは十分あり得る。
 戦没者特定の鍵を握るDNA抽出前の遺骨を保管する仮安置室が満杯になったからといって、焼骨するべきではないのである。
 3月には、戦没者遺骨のDNA情報に関するデータベース化やDNA鑑定施設の県内設置を国に求める意見書も全会一致で可決された。しかし前に進んでいない。このため、今回の決議でもその実現を国に求めるよう県に要請している。
 国は鑑定を希望する遺族のDNAをデータベース化し、遺骨のDNAと照合するシステムの構築など、できることはすべてやる姿勢で取り組むべきである。
 国が戦没者遺骨のDNA鑑定の完全実施に踏み切らない限り、戦没者は浮かばれないし、遺族の気持ちも癒えることはない。