介護外国人労働 恐るべき人権侵害許すな


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 前近代かと見まがうほどの恐るべき人権侵害だ。このような状態を放置するなら、日本は非人道的国家だとの非難を免れない。

 大阪府の介護会社「寿寿」が、フィリピン人女性を介護職員として採用する際、本人が死亡しても会社の責任を問わず「永久に権利を放棄する」という内容の誓約書を提出させていた。賠償請求を封じ込むのが狙いだろう。
 法学者が「公序良俗に反し、民事上は無効」と指摘せざるを得ない内容である。そうした契約が存在すること自体、問題だ。行政の目が届いていない。この会社に限らず、外国人労働者の雇用環境に問題がないか、関係機関はすぐに徹底調査すべきだ。
 2008年の国籍法改正で、日本人男性とフィリピン人女性の間の子どもは、両親が結婚していなくても日本国籍が取得できることになった。父親の認知が条件だ。
 寿寿は、フィリピンでそうした母子家庭の女性を対象に「会社が子どもの国籍取得手続きをする」と持ち掛けて勧誘した。だが入国すると手続きを取らぬ例もあった。
 同社は、渡航費を立て替えるという名目で数十万円の債務を負わせ、完済するまで毎月の給与から積立金を天引きした。強制預貯金は労働基準法の禁止事項だ。その債務も、日本語教育や介護技術研修の費用も含むといい、内訳も不透明だった。借金漬けにして労働を強制するのは、国際的には「人身売買」と見なされるだろう。
 社宅の家賃も天引きされ、女性らは月7万円ほどで生活を余儀なくされ、生活費が尽きてゴミをあさる人もいた。現地説明会では「日勤のみ」だった労働条件も、いざ日本へ入ると宿直勤務が入り、月13回に及ぶこともあった。
 フィリピン人女性の弱みにつけ込むような契約や働かせ方には、外国人差別や性差別が根底にある。大阪大大学院の研究者・原めぐみ氏がそう指摘するのもうなずける。外国人労働者を支援する市民団体も今回の例を「氷山の一角」と指摘する。
 確かに国内の介護需要は膨らみ続けている。だが外国人を単なる安い労働力と見なすなら、そして人権侵害を放置するなら、日本の介護職場は外国人からも敬遠されるだろう。そもそも介護職の人手を確保するには、待遇を改善するのが本筋だ。介護サービスの質を確保し、事故を防ぐ意味でも、そうした正面からの対策が望ましい。