沖縄戦で国保赤字 国は早期に制度を見直せ


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 県内の国民健康保険(国保)の2012年度の実質的な単年度収支が98億8932万円の赤字になるなど、県内の国保財政が急激に悪化している。その原因が次第に分かり始めてきた。沖縄戦で多数の県民が犠牲になったことで、65~74歳の前期高齢者の割合が全国平均の半分程度にとどまり、割合で配分される前期高齢者交付金が県内市町村に十分交付されていないためだ。

 県内11市の国保担当課長で構成する県都市国保研究協議会が人口動態などを基に調査し、この交付金制度が沖縄の市町村にとって不利に働くことを突き止めた。事態を重視した県市長会、県町村会、市議会議長会、町村議会議長会、県市町村国保連合会の5団体は近く国に是正措置を求める方針だ。制度の欠陥が赤字を増やす原因ならば、国は早期に改善すべきだ。
 国保医療費をみると、12年度の県内1人当たりの医療費は26万8473円で、全国最下位だ。医療費が赤字を引き起こしているとは言えない。12年度の国保税収納率でも県内は92・68%と全国で9番目に高い。被保険者による国保税の支払い率も高く、財政悪化の要因とは結び付かない。それなら、なぜ県内は赤字額が増大するのか。こうした疑問から国保研究協議会が調査を続け、前期高齢者交付金の制度にあることが分かったのだ。
 協議会の試算では前期高齢者の国保加入割合が1ポイント増えるだけで、交付金が13・6%も跳ね上がる仕組みになっている。前期高齢者の加入割合がどれだけ高いかで自治体に交付される金額に大きな開きが出てくるのだ。
 前期高齢者の割合は全国平均が32・9%なのに対し、県内は17・5%で全国最下位だ。沖縄戦で前期高齢者の世代が戦死し、この世代の親となれたはずの人々も戦死したためだ。このため前期高齢者の医療費総額に対する全国平均の交付割合は75・6%なのに対し、県内は最も低い31・0%だ。1人当たりの交付額では全国9万6859円なのに対し、県内は最も少ない2万2032円と約4分の1にとどまっている。沖縄県にとって不利な制度であり、あまりに理不尽だ。
 沖縄は69年前、国策によって引き起こされた戦争で多くの県民の命が奪われた。その犠牲が理由で医療制度に不利益が生じることは看過できない。国は一刻も早く制度の見直しを検討すべきだ。