着陸帯先行提供 どこまで米軍優先なのか


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 決め事をいとも簡単に放棄してまで、米軍基地を強化する既成事実を積み重ねるということか。

 米軍北部訓練場の一部返還に伴う東村高江のヘリ着陸帯建設をめぐり、沖縄防衛局がこれまでの方針を改め、基地返還を待たずに完成した着陸帯2カ所を先行して米側に提供する見通しであることが分かった。
 新設と既存の着陸帯が併用されれば、使える着陸帯が増え、米軍の訓練環境は格段に整備される。墜落の危険が付きまとう海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイがわが物顔で高江周辺を飛び回ることになる。騒音が激化し、住民生活の負担が増すことは間違いない。
 どこまで米軍の意向を優先するのか。これは、沖縄の基地負担軽減を図るとした日米合意に反し、基地負担増に直結する恣意(しい)的な基地運用にほかならない。静かな環境で暮らすことを望む高江住民の平和的生存権を侵す重大事態であり、到底認めるわけにはいかない。
 1996年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告によると、北部訓練場の返還区域のヘリ着陸帯を返還されない区域に移し、高江集落を取り囲むように六つの着陸帯が新設される計画だ。
 新たな着陸帯の完成を待って北部訓練場の過半の面積が返還され、その後に着陸帯が米軍に提供される予定だった。だが、今回の着陸帯先行提供は基地返還を後回しにして、米軍基地の使い勝手だけが向上することになる。
 高江では、県道の路側帯でヘリ着陸帯の建設阻止行動を取る住民を排除するため、政府は路側帯ごと米軍専用区域に変更することも検討している。基地建設に抗(あらが)う民意を封じ込めるため、なりふり構わずに法律を悪用するわけだ。
 新たな基地負担に反対する民意を押し切り、米軍基地や訓練施設の新設を推し進める日本政府の強硬姿勢があまりに露骨になっている。法治国家、民主主義国家にあるまじき対応は直ちにやめるべきだ。
 高江の森では新種のランや絶滅危惧種の植物が多く確認され、その数を増やしている。鳥や虫の鳴き声が響き渡るその静寂の深さに触れると、高江集落を取り囲むヘリパッド群が住民生活をかき乱す騒音源になることが実感できる。
 貴重な自然と生活環境を破壊しかねないヘリ着陸帯の建設、運用を即刻中止してもらいたい。