<社説>イラク新首相 挙国一致内閣で国内統合を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 過激派「イスラム国」による攻勢で国内混乱が続くイラクに、挙国一致内閣成立に向けた光明が見えてきた。

 国内外で退陣圧力が強まっていたイスラム教シーア派のマリキ首相が退陣表明した。新首相になる同じくシーア派のアバディ氏が、スンニ派やクルド人勢力と協力し、新たな国づくりを模索する。
 憲法では指名から30日以内の組閣が規定されており、それを実現できるかどうかが当面の課題だ。憎悪と報復の連鎖を絶ち、対立を乗り越え、各派が互いに譲歩し、融和への道筋を付けてほしい。
 マリキ政権は2006年に発足した。11年の米軍撤退後、同政権はシーア派を標的にしたテロに手を焼き、スンニ派政治家を排除した。石油利権をめぐりクルド人との対立も先鋭化した。
 首相自身が国防相、内相も兼務し、国軍や治安機関の要職に自身の影響力の及ぶ人物を起用した。スンニ派やクルド人勢力から反発を招くのは火を見るより明らかだ。
 イスラム国は、マリキ政権のシーア派偏重による国内混乱を突く形で攻勢を強め、イラクは分裂の危機に陥った。
 スンニ派主導のフセイン政権崩壊後、シーア派から冷遇されたスンニ派地域では、イスラム国を歓迎する動きさえある。
 各派の声を反映した政権なくしては、国内混乱の収束は有り得ない。挙国一致内閣の実現に向けて、アバディ氏の手腕が問われる。マリキ氏の失敗を教訓に各宗派を公平に扱う姿勢を示さなければ、挙国一致などおぼつかない。
 その象徴となるのがシーア派が独占してきた国の安定に関わる軍や治安機関の要職だ。能力に応じて、各派が不満を抱かぬよう任じる必要がある。それなくしては宗派間に深く刻まれた溝を埋め、信頼を取り戻すことなどできない。
 国際社会も自国の利益を優先することなく、イラク国内の統合を最優先に考えるべきだ。イランは同じシーア派のマリキ政権を支えてきたが、一方に肩入れすれば新政権を不安定にする。イラクの混乱が続けば、中東全体に影響を及ぼしかねない。
 米国は「大義なき戦争」といわれたイラク戦争で、自らまいた混乱の責任が問われる。国際社会が英知を集め、国内統合を後押しすることが過激派勢力の抑制、ひいては中東の安定にもつながる。