<社説>アスベスト訴訟 行政の怠慢による被害償え


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 アスベスト(石綿)被害に苦しむ患者、遺族らの訴えが司法に届いた。大阪・泉南アスベスト訴訟で最高裁は「粉じん対策を怠った」として、国の賠償責任を初めて認める判決を下した。

 安全規制の権限を持つ国が労働者の生命と健康を最優先させるべきだという原則を明確に示した点で、判決は評価できる。国は過去の行政の怠慢が招いた被害を深く反省し、判決を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 これまでアスベスト被害は、労災や工場周辺住民らを対象にした石綿健康被害救済法で対応してきた。
 泉南アスベスト訴訟の原告は、被害補償を担うはずの中小紡績工場が廃業してしまったため国を訴えたが、そもそもアスベスト被害を認知しながら放置してきた国には責任がある。
 戦前、泉南地域で国が実施した調査では勤続年数20年を超えると石綿肺発症率が100%になるという衝撃的なデータもあった。
 それを知りながら対策を取らなかったのは、石綿の代替品開発が遅れたからだ。経済成長を支えた石綿製品の危険性に目をつぶり、労働者の健康を犠牲にしたとしか映らない。怠慢を超えて不作為と言わざるを得ず、判決が国の賠償責任を確定した意味は大きい。
 判決では、国が粉じん防止に有効な排気装置設置を1971年まで義務付けなかったのは違法だと認め、損害賠償を命じた。一方で工場では排気装置設置が第一次的手段であり、防じんマスクに関しては補助的対策にすぎないとして早期に着用指導しなかったことは違法とは言えないとも判断した。
 泉南訴訟と同様に建設労働者も訴訟を起こしており、そこでは防じんマスクの着用が争点だ。第一次的手段は現場で違うはずだ。被害の深刻さを認識していた国は、幾重にも安全対策を義務付ける必要があった。判決は、そこまで踏み込んでもらいたかった。
 アスベスト被害に関しては全国で14の裁判が起こされ、労災認定も年間約千人に及ぶ。建材など石綿を使った製品はまだ身近に存在し、被害はさらに拡大する恐れもある。県内でも基地従業員を中心に健康被害に苦しんでいるが、労災認定のハードルは高い。
 被害者は高齢化し、残された時間は少ない。訴訟を長引かせてはならない。国は自らの非を認め、被害者に謝罪し、補償を急ぐべきだ。