<社説>人口減への不安 地方再生につなげる施策を


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 人口減少に「不安を感じる」と考える人が84%に達し、住んでいる市区町村の運営が困難になると感じている人が62%に上った。

 本格的な人口減少社会が到来する中、日本世論調査会が実施した全国世論調査の結果である。
 少子化と連動した働く世代の減少に伴う国力の低下や社会保障切り下げが不可避だと指摘される中、国民の危機感を反映していよう。
 効果的な対策を問うと、子育て世帯への支援拡充が49%、医療福祉サービスの充実が40%と上位を占め、ソフト面の強化を望む意識が浮かんだ。雇用創出を要望する声も強い。実効性ある対策を丁寧に吟味し、国民の不安解消に努めねばならない。
 大都市圏への人口の集中が続き、総じて人口流出が続く地方の疲弊が指摘されている。住みやすさ、子育てしやすい環境づくりなどのソフト面強化とともに、社会資本整備など、格差解消を望む地方自治体の声も無視できまい。雇用を創出する産業戦略など、地方再生に目を配った施策を求めたい。
 民間団体の「日本創成会議」は5月に896自治体が消滅の危機を迎えるとする報告書を発表し、人口減少問題がにわかにクローズアップされた。増田寛也元岩手県知事(東大大学院客員教授)が中心となってまとめ、子どもを生む中心世代(20~39歳)が2040年には10年に比べて半分以下になることを根拠に据えた。
 一方で、「消滅」の言葉が一人歩きし、名指しされた自治体では地域の再生に向けた意欲が損なわれるとの懸念が増幅している。
 人口減を危機バネとして生かし、不利を克服して人口を増やした自治体に目を注ぐ必要がある。
 日本海に浮かぶ島根県隠岐諸島の島の一つである海士(あま)町は過疎化にあえいでいたが、町長の給与50%カットなど徹底した行財政改革を進める一方、鮮度を保った魚を出荷できる最新の冷凍技術を使った海産物直売やブランド牛開発など産業振興に力を入れた。
 人口約2400人の約1割を島外からのほぼ働き盛り世代の移住者が占め、2013年に人口増に転じた。統廃合寸前だった高校も学級を増やした。
 山内道雄海士町長は「Iターン者の知恵が雇用を生み出し、何もなかった島を活性化させている」と手応えを話す。地方再生の先進例を人口減少社会の克服に生かすことも求められている。