<社説>大学へ脅迫文 卑劣な「言論テロ」許すな


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 これは言論や学問の自由を暴力で押しつぶす卑劣な犯罪だ。

 元朝日新聞記者が教授を務める帝塚山学院大学と、別の元朝日記者が非常勤講師を務める北星学園大学などが相次いで脅迫された。
 「辞めさせないと爆破する」「学生を痛めつける」と大学を脅し、教授は大学を辞職した。攻撃の対象は非常勤講師の子どもにまで及び、実名入り写真がインターネット上にさらされた。「自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれた。
 言論の自由を暴力で屈服させる行為はテロリズムと同じであり、断じて許されない。
 2人の元記者は「慰安婦」報道に関わっていた。1月末「“捏造(ねつぞう)”記者が大学教授に」と週刊誌が報じたことが発端となった。その後「反日」「捏造記者」という言葉で元記者を中傷するネット上の書き込みが相次いだ。
 朝日新聞社は8月5日、自社の「慰安婦」報道を検証した特集を掲載した。非常勤講師の書いた記事中、表現の誤用を認めた上で、意図的なねじ曲げはなかったと結論付けた。強制連行したとする故吉田清治氏の証言は「虚偽」と判断し取り消した。
 しかし、吉田証言が事実に反したからといって、「慰安婦」問題がなかったことにはならない。日本軍の組織的関与を示す資料は存在する。オランダなど当事国の調査結果や公文書でも明らかにされている。国連人権委員会は7月の対日審査後、意思に反した性行為を強いるのは強制的に慰安婦にするのと変わらないとの声明を出した。
 しかし朝日新聞の誤報記事撤回後、「慰安婦」問題をめぐる河野談話に関し自民党の萩生田光一総裁特別補佐は「骨抜きになっていけば良い」と発言した。歴史に真摯(しんし)に向き合わない国は国際社会から受け入れられないだろう。
 現在の状況は日中戦争開戦前夜に似ている。言論を封じ込めるために使われた「国賊」「売国奴」という言葉があふれている現状を危惧する。
 かつて沖縄の新聞は国により1紙に統合され、戦争遂行の宣伝紙と化した。沖縄戦後に内相が「敵の砲弾下にありながら1日も休刊せず友軍の士気を鼓舞」したと語り、国の言論統制の成果を示唆した。日本中の新聞が疑心暗鬼に陥り相手を監視し、自壊したことを忘れてはならない。自由な言論の保障は戦後民主主義の原点だ。