<社説>高齢者住宅制度 安心に暮らせる仕組みを


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 高齢者向けの賃貸住宅などで、利益優先の運営が問題化している。老後の住まい確保に関わる全体的な議論を進める必要がある。

 福祉サービスなどが受けられ、高齢者が安心して住める賃貸住宅として国が整備している「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)などで、運営事業者が不必要な介護保険サービスを提供して介護報酬を稼いだり、自社の介護利用を入居条件にしたりといった事態が横行している。
 厚生労働省が7~8月に行った全国調査で判明したものだ。サ高住と住宅型有料老人ホームについて、監督権限を持つ自治体の半数以上が、家事援助や入浴回数を必要以上に増やす「介護漬け」や、定額の報酬を得ておきながらサービスを絞る「介護渋り」などの問題が起きていると報告した。
 自治体側のチェックが追い付かない状況も指摘されている。国は全体像を早急に把握し、業者側に改善命令・指示を促すための基準づくりを急がなければならない。
 サ高住は、厚労省と国土交通省が所管する高齢者住まい法で2011年に定められた。老後も住み慣れた場所で暮らし続けられる「地域包括ケアシステム」の拠点として国が整備を後押ししており、登録戸数は急増している。1戸当たり最大100万円の建設補助金が出ることもあり、不動産など異業種からの参入も相次ぐ。
 ただ手厚い介護サービスを提供する業者がいる一方、悪質な業者や経営に行き詰まる業者も出るなど「玉石混交」の状態にある。高齢化に備えて整備を促すあまり、制度設計に無理はなかったのか。検証が求められよう。
 悪質な業者がはびこるのは、高齢者の住まい確保に関する政策が後手に回っていることも一因だ。
 比較的費用が安い特別養護老人ホームの全国の入所待機者は52万人に上る。現在の定員とほぼ同水準だ。低所得者向けの有料老人ホームなども不足しているため、本来は自立度の高い人が入居する想定だったサ高住に、やむを得ず要介護度の高い高齢者らが流れている。サ高住は全入居者の3割が中重度の要介護者であり、憂慮すべき事態だ。
 低所得者や重度の要介護者がしわ寄せを受けるような制度は早急に改めなければならない。全ての高齢者が安心して暮らしていけるような仕組みづくりへ、社会全体で知恵を絞りたい。