<社説>日銀追加緩和 過度の円安を危惧する


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 日銀が追加金融緩和に踏み切った。「驚き」効果を狙った形だが、家計や中小企業の負担増などマイナス面への懸念が消えない。

 日銀は昨年4月、デフレ脱却を目指した「異次元緩和」を導入した。世の中に出回るお金の量を2年で2倍に増やせば、物価が2%程度上昇する景気回復を達成できるとしていた。
 出回る資金量を1年間で60兆~70兆円増やすとしていたが、長期国債などを買い増してこの目標を80兆円に拡大させた。
 黒田東彦総裁は「今はまさに正念場」とデフレ脱却へ強い決意を示した。だが追加緩和せざるを得ないのは今の量的緩和効果が十分でないことの裏返しでもある。
 消費者物価の上昇率は、4月に消費税増税の影響を除いて1・5%に達したが、景気低迷で9月は黒田総裁が「割ることはない」と断言していた1・0%まで低下した。増税前の駆け込み需要の反動減が長引き、足元では原油価格下落の影響もある。
 金融緩和が設備投資や個人消費を促し、企業収益が増え、賃金も上昇するという好循環にはまだ程遠い。現状は日銀が資金供給を増やしても、結果的に銀行から日銀への預金が増えるばかりで、家計や企業に行き届いていない。
 追加緩和を受けて市場では株価が上昇し、円安が進んだ。サプライズ効果が表れたが、どこまで続くかは分からない。むしろ円安に拍車が掛かれば原材料や食料品の輸入価格がさらに上昇し、企業や家計の負担が増しかねない。
 日銀は、円安が進めば自動車など輸出型大企業で大きな為替差益が得られ、日本経済全体でプラスになると判断している。だが生産拠点は海外にかなり移転しており、産業界からも「現在の構造では円安はマイナス」「輸出増効果はあまりない」との指摘がある。
 追加緩和は、安倍晋三首相が消費税再増税を決断しやすくなるよう財務省出身の黒田総裁が環境を整えたとの見方もある。内需が低迷する今、消費の冷え込みを覚悟して増税すべき時期にあるとは到底思えない。
 日銀の政策決定会合では9人の委員のうち4人が緩和に反対した。異次元緩和はさらに未知の領域に踏み込むが、大量の国債を抱え込むリスクは膨らみ、過度の円安懸念も残る。金融正常化への「出口」が遠のかないかと危惧する。