<社説>廃炉工程見直しへ 実現可能な計画で着実に


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 大きく損傷した原発を解体するという前例のない作業の困難さをあらためて思い知らされる。

 国と東京電力は、福島第1原発の廃炉に向けた作業工程を1、2号機で見直す方針だ。
 1号機は、使用済み燃料を2年遅れの2019年度から、溶け落ちた燃料は5年遅れの25年度からそれぞれ取り出すという。
 30~40年と見込まれる廃炉完了の時期に影響はないとする。しかし、2号機は建屋内の放射線量が高く、燃料の取り出し方法を再検討する。
 廃炉完了の時期が遅れる可能性も否めまい。「想定外」にも対処可能な綿密な計画を立て、作業員の安全も確保し着実に廃炉に向けた作業を進めてもらいたい。
 廃炉工程が初めて示されたのは11年12月で建屋内や原子炉の内部など分からない部分が多い時期だった。工程はいくつもの仮定に基づき策定されており、見通しの甘さがあったのは間違いない。
 見直しは昨年6月にもあり、溶け落ちた燃料の取り出しを当初の工程より最大1年半前倒しして20年度前半としていた。
 溶け落ちた燃料がどんな状態でどこにあるのか分からないのに、使用済み燃料を取り出す機器を溶け落ちた燃料にも利用し、作業を効率化できるとみていた。
 民主党政権との違いを打ち出すという政府の狙いも見えたが、結局は当初の工程よりさらに遅れることになった。
 国と東電には作業現場の状況を踏まえた実現可能な工程見直しを求めたい。先が見えぬようでは住民の帰還意欲をそぎかねない。
 東電は廃炉費用として2兆円を見込むが、計画が遅れれば青天井になりかねず、電気料金や税金が国民にのしかかる恐れがある。来春の廃炉工程の改定に合わせて廃炉費用の試算も示すべきだ。
 いったん過酷事故が起これば、原子力は人間の制御を離れ、放射性物質をまき散らす怪物となる。廃炉工程は何度見直しても、人知の及ばぬものが出てこよう。
 安倍政権は原発再稼働に前のめりになり、収束作業も見通せない中で海外輸出にも奔走する。
 原発の安全性、経済性は神話にすぎないことを、廃炉作業は教えてくれる。原発が立地する自治体や議会は再稼働の是非を判断する前に、福島第1原発の廃炉作業を注視してほしい。