<社説>川内原発再稼働へ 見切り発車は禍根を残す


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 福島第1原発事故の教訓は全く生かされていない。民意がかすむ見切り発車である。悪しき先例になることを危惧する。

 九州電力川内原発の1、2号機がある鹿児島県薩摩川内市長に続き、伊藤祐一郎知事が再稼働に同意した。周辺自治体の住民には反対論も根強いが、これで形式上は地元の同意手続きが完了した。
 多数を占める国民が反対しているにもかかわらず、原発が来年早々に再稼働することになる。深刻な課題が置き去りにされたままのなし崩し的な再稼働は後世に禍根を残す。無責任であり、到底認められない。
 原子力規制委員会は、川内原発の安全設備や保安規定に関する最終的な審査を終えていない。にもかかわらず、薩摩川内市と鹿児島県はなぜ判断を急いだのか。
 来年4月の統一地方選への影響を避けるため、自民党主導の与党と気脈を通じたことは否めない。政治的思惑が絡んだ拙速な判断だ。
 放射性物質が広範囲に拡散した福島第1原発事故は収束せず、立地自治体以外も広く汚染された。国はこの過酷事故を受け、住民の避難計画策定などを義務付ける範囲を拡大し、半径10キロ圏から30キロ圏に変更した。
 問題点は多岐にわたる。原子力規制委は避難計画策定に関与せず、国は地元自治体に丸投げしている。さらに「地元」の明確な定義はないままだ。
 川内原発の半径30キロ圏にある日置市といちき串木野市の議会が、「地元」に加えるよう求める意見書を可決したが、民意は無視された。立地自治体と県だけの判断で再稼働が進めば、福島原発事故前と手続きは何も変わらない。
 原発再稼働を急ぐ安倍政権は、同意の範囲を最低限でも30キロ圏内に広げるべきだ。周辺自治体の民意が反映されず、住民に被害の懸念を抱かせるのは酷すぎる。
 鹿児島県内9市町が策定した避難計画も不備がいくつもある。自力での避難が難しい入院患者や老人ホーム入所者の避難先は、半径10キロ圏外では確保されていない。
 さらに、原子力規制委の新たな規制基準に対し、原発周辺にある火山が噴火する危険性を挙げ、日本火山学会は審査基準の厳格化を提言したばかりだ。
 未解決の課題が残る中の再稼働は国民の命を危険にさらす。安全神話復活の序章にしてはならない。