<社説>カジノ導入中止 沖縄の魅力引き出す観光を


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 沖縄県はカジノ導入の検討中止を決めた。翁長雄志知事は県議会の代表質問で「好調な観光の将来に影響を及ぼしかねず、ギャンブル依存や地域環境への影響が懸念される。沖縄への導入は考えていない」と明言した。

 担当部長も、前県政が導入に向け実施してきた調査研究を中止する考えを示した。知事選の公約に沿った方針転換であり、妥当な判断だ。
 前知事の仲井真弘多氏は4年前の知事選で「県民の合意が得られなければ導入しない」との公約を掲げていた。しかし仲井真氏は県民合意の手順を踏む前の昨年12月、沖縄政策協議会の場でカジノを中心とする統合型リゾート(IR)の候補地に沖縄を入れるよう政府に要請した。県議会で県民の合意形成が後回しになっていると指摘されると「県民合意を図るのは後で十分間に合う。早く手を挙げておかないと、間に合わない」と述べ、前のめりでカジノ導入に突き進む自身の行動を正当化した。県民の声に耳を傾けることもない、明らかな公約違反だった。
 政府与党はIR整備推進法案の年内成立を目指していたが、公明党に慎重論が根強いことなどを理由に来年の通常国会以降に先送りしている。安倍晋三首相は「成長戦略の目玉」と位置付けているが、治安悪化やギャンブル依存症の増加などの懸念も指摘されている。
 厚生労働省研究班が8月にまとめた推計によると、国内にはギャンブルに向かう気持ちが抑えられない「ギャンブル依存症」の疑いがある人は536万人いるという。成人の4・8%に上り、世界のほとんどの国が1%前後にとどまる中、日本が突出している。依存症の1~2割は破産や自殺といった破滅的な状況に陥る危険性があるとされる。こうした負の側面も十分に議論、検討する必要がある。
 共同通信社が10月に実施した全国世論調査でカジノ合法化に反対は63・8%に上り、全国的にも否定的な声が大勢だ。JTBの高橋広行社長は本紙インタビューで「ラスベガスは砂漠なので観光客はIRのために行く。しかし沖縄はこれだけの魅力があるのだから、カジノで観光客を呼び込むのではなく、潜在的な魅力を磨き上げていくのが大事だ」と述べている。正論である。カジノ導入ではなく、沖縄の魅力を十分に引き出すような観光振興を進めるべきだ。

※注:JTBの高橋広行社長の「高」は旧漢字