<社説>朝日「慰安婦」検証 歴史的事実は変わらない


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 日本軍「慰安婦」報道を検証するために設置された朝日新聞社の第三者委員会が報告書を発表した。

 訂正や謝罪遅れを厳しく批判し「編集に経営側が過剰に介入し、読者のためではなく、朝日新聞社の防衛のための紙面を作ったことに主な原因がある」と指摘し「読者を裏切った」と断じた。
 渡辺雅隆社長は「社を根底からつくりかえる覚悟で改革を進める」と述べた。委員会の提言を今後の教訓としてほしい。
 同社は8月の特集紙面で「済州島で強制連行した」とする故吉田清治氏の証言を虚偽として取り消した。この特集紙面に謝罪がないことを批判した池上彰さんのコラムの掲載を一時拒否した。吉田発言は1980年代から十数回にわたり掲載された。長期間、虚偽を見抜けず、経営判断で謝罪が遅れたことは猛省すべきだろう。
 しかし、朝日の対応のまずさを「売国」「国賊」と誹謗(ひぼう)中傷する風潮は、戦前の「赤狩り」や米国のマッカーシズムを連想させる。朝日を批判することで、日本軍「慰安婦」が存在しなかったかのようなすり替えは許されない。朝日新聞報道に関する問題と日本軍「慰安婦」問題は別物であることを強調したい。
 これまでの調査研究によって「慰安婦」に関する公文書が多数確認されている。日本軍の強制連行を示す文書も存在する。オランダやアジア各国の被害者証言からも裏付けられている。この歴史的事実は変えられない。
 昨年来沖した韓国人「元従軍慰安婦」の金福童(キムボクトン)さん(当時87)は「血のにじむ経験をした私が(強制連行の事実を)証言している。これ以上の証拠がどこにあるのか。私はここにいる」と訴えた。脅迫されバスに乗せられ「軍服をつくる工場で働く。嫁にいく年になれば帰してやるから」とだまされた。当時14歳。私たちはこの証言を決して忘れない。
 来年は戦後70年を迎える。沖縄に駐留した日本軍が各地に慰安所を造ったことは知られている。陣中日誌にも記録が残されている。しかし、これまでの沖縄戦報道で「慰安婦」問題は十分解明されていない。
 新聞は国民を戦争に駆り立てた反省から、戦争のために二度とペンを執らないと誓って再出発した。その原点に返って、戦争の実相を掘り起こしていきたい。