<社説>労働時間規制外し 働く人に犠牲強いる制度だ


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 厚生労働省の労働政策審議会は高収入の専門職労働者らを時間規制から外し、働いた時間ではなく成果で賃金が決まる「高度プロフェッショナル制度」の導入を柱とする報告書をまとめた。

 なぜ労働時間の規制を外し、残業代を支払わない方が、生産効率が上がり成果が出しやすくなるのか。結果的に残業代のない長時間労働を強いることになるのではないか。政府は制度導入の根拠を明らかにすべきだ。
 むしろ労働行政に求められるのは「残業代ゼロ」の制度導入ではなく、残業代の未払いがゼロになるよう労働基準法を改正することだ。同時に時間外労働時間の上限を厳しく規制することだ。
 就労構造基本調査(2012年)によると、男性の正規雇用労働者のうち年間250日かつ週60時間以上働く労働者は297万人(全体の13%)で、過労死ラインを超えている。さらに年間250日かつ週75時間以上働く労働者は62万人(同3%)に達する。
 厚生労働省によると、13年度に全国の労働基準監督署の監督指導を受けた後に企業が支払った残業代は約123億円。対象労働者は約11万5千人に上る。
 高度プロフェッショナル制度は成果で評価するというが、成果の基準は誰が決めるのか。成果を出すために、残業代のない長時間労働を強いられることになりかねない。高度プロフェッショナル制度の対象者と想定される40代の専門職や技術職の労働者は過労死が多いという。専門家は、こうした人々を労働時間規制から外すと働き過ぎが助長される恐れがあり、過労死防止法制定の流れに逆行すると指摘している。
 経団連は05年に年収400万円以上の労働者を対象にする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を提言した。第1次安倍政権は経団連の提言通り年収800万~900万円の労働者を対象に「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入しようとした。しかし、反発が強く断念に追い込まれた。
 今回は名称を変え対象者を限定している。しかし、いったん制度を導入すれば、なし崩しで対象が広がりかねない。働く人に良質な雇用機会を保障し、安心して働ける労働政策こそ必要だ。雇用や労働条件を犠牲にした経済成長は本末転倒である。