<社説>メルケル氏発言 言葉の重み参考にしたい


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 戦争の過去に真摯(しんし)に向き合ったドイツの自信の表れと言えようか。

 ドイツのメルケル首相が来日、安倍晋三首相と会談し、その後の記者会見で同じ敗戦国としての自国の取り組みに触れ「過去の総括が和解の前提となる」と語った。
 安倍首相との会談では、日本と中韓両国との対立が解消されない東アジア情勢に絡み「ナチス時代の行為について透明性を持って検証してきた経験がある」とも指摘した。
 メルケル氏は「アドバイスする立場にない」と前置きしたが、日本に歴史認識問題に向き合うよう促したと言えよう。
 安倍首相は夏に戦後70年談話を発表するが、歴代内閣が引き継いだ「植民地支配と侵略への反省」をきちんと記すことが不可欠だ。メルケル氏の語るように、それが中韓両国との関係改善の前提になる。
 メルケル氏は会談前の講演、会談、その後の記者会見で歴史認識について触れた。当初、慎重とされる同氏が機微な問題に触れるとは予想されていなかった。それでも踏み込んで発言した背景には、東アジアで日本と中韓両国との対立が続けば貿易への影響など経済的リスクがドイツまで及びかねないとの懸念があるのだろう。
 講演の中で和解と関係改善についてこうも語った。「当時の大きなプロセスとしてドイツとフランスの和解がある。今では友情に発展している。隣国の寛容な振る舞いがあったからこそ可能になった」
 日本は過去に向き合うことが前提だ。同時に、政権の求心力維持や、政権の正統性を主張するためだけに中韓両国が対日批判を強める状況は建設的でないと言える。両国は戦後の日本外交の努力にも目を向けてもらいたい。
 メルケル氏は「脱原発」にも言及した。東京電力福島第1原発事故後、2022年までの原発全廃を決めた理由について「技術水準の高い日本でも予期しない事故が起こり得ると分かったからだ」と述べた。未曽有の事故から得た教訓から政治決断を下した。事故が収束しないうちに原発再稼働にかじを切り、事故原因が十分解明されないまま原発輸出を進める安倍政権とは対照的だ。
 最優先すべきは「安全」であって、安倍首相の言う「低廉で安定的なエネルギー」ではないはずだ。
 メルケル氏の言葉の重みを参考にしたい。