<社説>西普天間返還 負担軽減を推進すべきだ


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 跡地利用の策定に向けては県民の幅広い合意形成を求めたい。

 米軍キャンプ瑞慶覧(約596ヘクタール)の西普天間住宅地区(宜野湾市、約51ヘクタール)が返還された。きょう現地で記念式典が開かれる。
 日米両政府が2013年4月に合意した嘉手納より南の米軍基地の返還・統合計画に基づく返還としては13年8月末の牧港補給地区の北側進入路(1ヘクタール)に次いで2例目だ。
 だが跡地利用には課題も多い。まず懸念されるのは環境問題だ。
 西普天間地区では昨年8月、市教育委員会の文化財調査が始まったが、腐食したドラム缶や異臭を放つ土壌が相次いで発見された。同じく基地跡地である沖縄市のサッカー場で高濃度のダイオキシン類を含むドラム缶が見つかっており、地権者らの不安は大きい。
 米軍に返還跡地の原状回復や補償を義務付けていない日米地位協定の不平等性とその抜本的改定の必要性があらためて問われよう。
 西普天間は沖縄防衛局が2~3年をめどに土壌汚染や不発弾の有無などを調べて原状回復を図るが、徹底的に調査すべきだ。過去には土地の引き渡し後に汚染が発覚した事例もあり、日米がその後の汚染除去に責任を持つよう自治体と取り決めるべきだと考える。
 西普天間は跡地利用計画の柱に「国際医療拠点」の形成を掲げる。商業施設誘致が中心だったこれまでの跡地利用とは異なる。琉球大医学部・付属病院の移転に加え、県や医療関係者が取り組む、がん治療の重粒子線治療施設構想が大きな注目を集めている。
 国民の2人に1人はがんにかかるといわれる時代だ。最先端医療への期待は高いが、約300万円の治療費がかかる施設の採算性には疑問の声も多い。もし赤字になればその負担はどうするのか。県などには厳正な事業評価と県民の納得いく説明を求めたい。
 西普天間返還に対し政府は「目に見える形で沖縄の負担軽減につながる」(中谷元・防衛相)と強調しているが、返還面積は返還・統合計画全体の5%だ。「細切れ返還でなく国道58号沿いの隣接地区との一体返還を」(地主会)と求めた地元の要望も実現しなかった。
 西普天間は「負担軽減」の入り口にすぎない。日米両政府は普天間飛行場の辺野古移設問題と切り離し、嘉手納より南の返還計画全体を推し進めなければならない。