<社説>海保の危険な警備 死者が出てもいいのか


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 米軍普天間飛行場移設に伴う新基地建設を政府が推し進める名護市の大浦湾で、抗議する市民を危険にさらすこともいとわない海上保安官の異常な警備が続いている。

 4日には海上保安庁のゴムボートが海を泳ぐ男性に正面からぶつかった。船体中央部分付近まで乗り上げられた男性は、自力で船の脇に脱出したが、顔面打撲などで加療約3日のけがを負った。
 船のスクリューに巻き込まれる危険性があった。船底は硬質の素材でできている。一歩間違えば命さえ奪いかねない危険な行為である。
 そのことを海上保安官が知らないはずがない。だが海上保安官は謝罪しないどころか、「そんなにスピード出ていないから大丈夫だろ」と言い放ったという。複数の人がその言葉を聞いている。
 海保では認められた行為なのだろうか。だとすれば、やってはならないことへの感覚がまひしているとしか言いようがない。
 海で市民を危険にさらすことが海上保安官の任務ではあるまい。海上保安官としての原点に立ち返るべきだ。
 5月には海上保安官がカヌーをつかんで市民を拘束した後、「落とせ」との指示を受けて転覆させた。女性の首に足を巻き付けてカメラを奪おうとしたり、ゴムボートの後方から特殊警備救難艇で衝突して乗り上げたりするなど、危険行為は枚挙にいとまがない。
 命を危険にさらす行為を海保が平然と行っているのは、過去を含めて大浦湾ぐらいしかないだろう。このような異常な警備をやめさせなければ、いずれは命を奪われる市民が出る可能性さえある。
 ところが、第11管区海上保安本部は「個別具体の状況に応じて適切に対応している」と繰り返している。ボートで人に衝突することを「適切」とすることの異常さを感じていないとあっては、海保に自浄能力は期待できない。
 太田昭宏国土交通相は5月、「過剰な警備となることがないよう、また過剰な警備と受け取られることがないよう海保に繰り返し伝えている」と述べた。だが現場に全く伝わっていないのではないか。
 国交相に問いたい。「死者が出てもいいのか」と。国交相は海保長官を指揮監督する立場にある。市民の命を危険にさらす異常な警備の是正に、早急に取り組むことを求めたい。