<社説>指導要領骨格案 制限設けず主権者教育を


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 現実の政治課題に対し、健全な批判力を養うことが主権者教育の要諦である。社会へ主体的に参画していく若者を育む主権者教育の確立を目指したい。

 文部科学省が次期学習指導要領の改定骨格案を中教審の特別部会に提示した。高校生の公民で「公共」を新設し、必修化したことが骨格案のポイントの一つだ。
 来年の参院選から選挙権年齢が18歳に引き下げられることを見据えた措置である。文科省は「主権者教育の重要性が増しており、全ての高校生が学ぶ必要がある」と説明している。
 若者の積極的な政治参加を促し、政治を活性化する上で主権者教育の充実は欠かせない。
 問題はその内容である。仮に教育現場に政治を持ち込んではいけないという理由で制限を設けてしまっては、主権者教育の意味をなさない。選挙の仕組みや投票方法を指導するだけに終わってしまう。
 実社会に横たわるさまざまな課題と向き合い、主体的な判断を下すという政治意識の醸成こそが投票の前提となる。主権者教育も政治とは無関係ではあり得ない。
 教育現場で政治的な課題を扱いながら中立性を確保する実践の積み重ねによって望ましい主権者教育を追求する姿勢が求められる。賛否が分かれるような課題でも多様な論点を提示し、学習するという環境づくりが必要だ。
 沖縄は常に政治的抑圧との対峙(たいじ)を強いられる近現代史を歩んできた。現代の県内高校生もこの歴史の延長線上にいる。普天間飛行場代替の新基地建設問題などに対しても、高校生なりの問題意識を持っていよう。授業で全く扱わないというのは逆に不自然である。
 安全保障や歴史認識で国家主義的な主張を打ち出してきた安倍政権下で主権者教育が持ち出されたことへの懸念もある。国家に従順な国民の育成を意図していないか、注視しなければならない。
 一方、世界史と日本史と統合し、近現代史を中心に学ぶ「歴史総合」を必修科目として新設することも、今回の改定骨格案のポイントだ。
 日本の近現代史を考える上で不可欠なのはアジア諸国との関係、特に「加害の歴史」とどう向き合うかである。それを無視した歴史教育がなされてはならない。
 次代を担う若者がアジア諸国と友好な関係を築くためにも、史実に忠実な歴史教育を望みたい。