<社説>TPP月内見送り 交渉内容の詳細を公開せよ


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 環太平洋連携協定(TPP)交渉で、政府が目標としていた年内の署名が不透明な情勢になった。もう一度立ち止まって国益の在り方を考えてみることが必要だ

 TPP交渉で政府は参加12カ国による月内の閣僚会合開催の働き掛けを断念する方針を固めた。各国の利害対立を月内に乗り越えるのは困難と判断したためだ。
 政府は9月の開催を目指すが、実現性は不透明だ。この際、妥結を急ぐその姿勢を改めるべきではないか。
 交渉では米ハワイ州で7月末まで閣僚会合が開かれたが、目標の大筋合意には至らず、閉幕した。医薬品や乳製品をめぐり対立が続き、まとまらなかった。
 乳製品の市場アクセスをめぐっては、輸出国のニュージーランドが大幅な関税引き下げや輸入枠拡大を主張し、日本や米国、カナダなどと合意に至らなかった。
 ニュージーランドに対し、甘利明TPP担当相は「頭を冷やしてもらいたい」と怒った。だが自国民や自国産業の保護のため最後まで譲らない姿勢よりも、妥結へ前のめりとなる日本の姿勢こそ本来問われるべきではないか。
 今回、新薬のデータ保護期間では、大手メーカーの利益を優先する米国が12年を主張したが、オーストラリア、マレーシアなどは5年以下を求めて対立した。期間が長くなると利用者負担が増え、国の医療費もかさむためで、ジェネリック医薬品(後発薬)普及を図りたい自国の立場を強く訴えた。
 一方、日本はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品など重要5品目の保護を掲げていたが、牛・豚肉の関税大幅引き下げなど「聖域」だったはずの5品目でも大きく譲歩している。沖縄のサトウキビなど農家への打撃は計り知れない。
 交渉を急ぐ背景には「農産品で可能なカードはほとんど切った」(農林水産省)事情があるが、米国追従の一方で交渉を有利に進められなかったツケを払わされるのは国民だ。
 TPPには企業が投資相手国に損害賠償を求められる紛争解決手続き(ISDS条項)など、その他にも国民生活に影響の大きい項目があるが、こうした交渉過程はほとんど明らかにされない。
 国民の了解もなく安易な妥結に走ることは許されない。何が国民の利益にかなうのか。政府は交渉の内容や経過をつまびらかにし、議論の機会を与えるべきだ。