<社説>難民急増 人道が試されている


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 トルコの波打ち際に漂着した3歳児の遺体。その痛ましい写真が難民の過酷な状況を世界に伝えた。

 大量の難民への対応をめぐり欧州連合(EU)の意見が割れている。だが、ことは人命に関わる。情勢は日々悪化しており、猶予はない。国際社会は一刻も早く結束し、保護に取り組んでほしい。
 中東やアフリカから欧州への移民や難民はことし既に36万人を超えた。21万9千人だった昨年の倍に達する勢いだ。
 急増の主因はシリアの内戦と過激派組織「イスラム国」の圧政だ。家が壊されインフラも壊滅、子らは学校にも行けない。そんな情勢からやむなく脱出した人が多い。
 痛ましいのは渡航中の死者が約2700人に及ぶことだ。違法業者の手引きで乗った密航船の環境は劣悪で、その船が沈没したり、押し込められた輸送車内で窒息したりする例が相次ぐ。
 EU欧州委員会とドイツは5月、人口や経済力に応じ国ごとに受け入れ人数を割り当てる措置を共同提案したが、他の国々が反対した。
 その状況を3歳児の写真が一転させ、英仏も政策転換を打ち出した。欧州委は受け入れ人数を増やした分担義務化を近く提案する。だが東欧などの抵抗はなお強く、欧州結束の理念が揺らいでいる。
 ハンガリーなどでは流入を防ぐフェンス設置の動きもある。だがこうした「対策」は、手引き役の報酬をつり上げ、渡航環境を悪化させて危険を増幅するだけだ。
 欧州委のティメルマンス第1副委員長が述べた通り、欧州が直面しているのは、紛れもなく「前例のない人道、政治危機」なのだ。
 だが挑まれているのは欧州だけではない。シリアの難民は400万人に達するとされ、トルコには既に200万人近くが流入した。近隣国の受け入れが限界に達した結果が、欧州への流入なのである。
 国を離れた難民や国内避難民は昨年1年間で1390万人増え、年末時点で5950万人に達した。これは過去最多だ。第2次大戦後最大の問題となりつつある。欧州だけでなく世界が今、人道を試されているのだ。
 難民認定が世界一厳しいとされる日本も含め、国際社会は、財政支援だけでなく自国での受け入れも検討すべきだ。
 問題を根本から絶つには紛争の終結が求められる。停戦合意へ向け、国連を中心に国際社会が早急かつ強力に取り組んでもらいたい。