<社説>辺野古協議決裂 尊厳懸け粛々と取り消せ


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 相手の話に耳を傾けて、違いや溝を埋めるために話し合い、一致点を見いだすよう努める。それが協議の意味のはずである。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を伴う新基地建設をめぐる県と安倍政権の集中協議は、完全な平行線をたどり、安倍晋三首相が出席した5回目で決裂した。
 協議全体を通して、安倍政権側は「辺野古が唯一の解決策」と呪文のように繰り返すばかりだった。木で鼻をくくったような言い分を翁長雄志知事が受け入れるか否かと迫るだけの構図は協議の名に値しない。国策の押し付け、恫喝(どうかつ)に等しい。決裂の責任は安倍政権にある。
 安倍首相や菅義偉官房長官が「知事に理解を求める」という言葉をいくら繰り出しても、実態は沖縄を屈従させるしかないという差別をまとった強権的姿勢と思考停止があぶり出されただけだった。
 米軍による土地強奪の陰影が濃い沖縄戦後史、「抑止力」など新基地の必要性をめぐる虚構、新基地拒否の強固な民意など、翁長知事は意を尽くして沖縄の立場を説いた。だが、沖縄の尊厳を懸けた知事の主張に対し、安倍政権は徹頭徹尾、聞き置くだけにとどめた。
 仲井真弘多前知事による埋め立て承認にしがみつくばかりで、その後の名護市長選、名護市議選、天王山の県知事選、衆院選で新基地拒否の候補者が圧勝したことについては一度も言及はなかった。
 翁長知事に理解を得る努力をした形跡を残すアリバイにし、国民を抱き込むことはやめた方がいい。安保関連法案審議からうかがえる、国民を見下した政権の品格を一層おとしめるだけである。
 菅官房長官は埋め立て作業の再開を知事に通告した。1カ月間の集中協議の行方に気をもんでいた県民は逆に視界が開け、すっきりしたのではないか。沖縄にとって駄目なものは駄目なのだと。
 翁長知事は「全力を挙げて阻止する」と即座に対抗した。さらに「お互い別々に今日まで生きてきたんですね。70年間」と述べ、沖縄を同胞扱いしない政権を痛烈に批判した。県民の心情を代弁していよう。
 知事は粛々と埋め立て承認の取り消しに踏み出せばいい。国連での演説、県民投票など、新基地建設を止めるあらゆる手段を国内外で緻密に駆使してほしい。民主主義的正当性を深く認識し、誇りを懸けて抗(あらが)う県民が支えるだろう。