<社説>改正派遣法成立 経済成長を放棄する愚


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 労働者の使い捨てを招き、格差を拡大させて何が「成長戦略」か。経済成長どころか人口減を進ませる愚策と言うほかない。

 人を入れ替えさえすれば派遣労働者の受け入れが無期限にできる改正労働者派遣法が成立した。労働者保護の仕組みを一変させる大転換が、国民的議論もなくなされたのは容認できない。改正の結末を厳しく検証し、あるべき状態に戻すべきだ。
 政府与党が強引に成立させたのは、派遣労働者を保護する新たな制度を骨抜きにするためである。「労働契約申し込みみなし制度」だ。違法派遣があった場合、派遣先企業はその労働者を直接雇用せねばならないとする制度である。
 従来の派遣法では専門業務は無期限派遣が可能だが、一般業務は最長3年で、超えると違反だ。両方の業務が混在する場合、一般業務なのに専門業務に偽装したと判断され、厚労省から是正指導される例も少なくない。例えば「OA機器操作」名目の派遣だが、実際にはお茶出しや電話対応が多いといった例だ。新制度になれば、こうした労働者は直接雇用に切り替えられるはずだった。
 だが今回の派遣法改正で期間制限はなくなるのだから、こうした例も違法でなくなる。新制度は10月1日施行だが、改正派遣法の施行は今月30日。つまり新制度を無効にするための法改正なのである。
 「正社員を望む人にはその道を開き、派遣を選ぶ人は待遇を改善する」。安倍晋三首相らはそう繰り返してきた。改正で、3年を超えて派遣する場合は派遣会社が受け入れ先企業に直接雇用を要請するとしたのがその根拠だ。
 だが企業には要請に応じる義務はない。厚労省の2012年版「労働経済の分析」によると、企業が非正規を活用する理由で最も多いのは「賃金節約」だ。派遣社員の賃金水準は正社員の6~7割である。応じる義務がなければ、要請に応じて賃金節約を放棄するなど、まずあり得ない。首相らが「虚偽答弁」と非難されたのもうなずける。賃金が節約でき、人員整理もしやすい派遣が無期限にできるのだから、今後正社員から派遣への置き換えが進むのは火を見るより明らかだ。
 前述の厚労省資料によると、結婚した割合は非正規で正規より男性で30ポイント、女性で10ポイントも低い。労働条件改悪は格差社会拡大を招き、人口も減少させるのである。