<社説>安保法制と採決 廃案の機こそ熟している


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 参議院で審議中の安全保障関連法案をめぐる16日の地方公聴会を終え、安倍政権と与党は17日未明に開かれる特別委員会を受け、同日中の本会議開催を決めた。同日中に法案を成立させる構えだ。

 採決の環境づくりのための公聴会開催であり、国民の強い懸念を審議に反映させる姿勢はない。強引かつ国民に背を向けた採決ありきの対応だ。
 戦後の平和国家の歩みを根底から覆し、安保政策を大転換させて「戦争ができる国」へと様変わりする法案に対する国民の反対の声は、デモや集会などの具体的行動を伴って燎原(りょうげん)の火のごとく広がっている。16日夜も国会前に数万人が押し寄せ、反対の声を上げた。
 元最高裁長官や多くの法律専門家が違憲性を指摘、各種世論調査で過半数が成立に反対し、総じて8割が説明不足と指摘している。法案内容だけでなく、国民の多くが異論を封じて聞く耳を持たない安倍政権の独善的な手法と、安倍晋三首相らの暴走に歯止めをかけられない国会に不満を強めている。
 採決を強行することは断じて認められない。立憲主義を崩し、法的安定性を損なう点、国民世論との乖離(かいり)などを踏まえれば、廃案にする機こそ熟しているのである。
 「国会審議を延ばしても国民の理解を得られなかったのだから可決は無理だ」。中央公聴会で学生たちの団体「SEALDs(シールズ)」の奥田愛基(あき)さんは冷静に指摘した。まさにその通りである。
 衆参両院の審議が200時間を超えたのに国民の理解は一向に深まらない。中東のホルムズ海峡の機雷除去への参加の可否について、首相はずっと可能と説明してきた。しかし、14日になって首相は「現実問題として具体的に想定していない」と述べ、現実離れした事態と認めた。今までの議論は虚構だったことがはっきりした。
 日本人母子を乗せた米艦を防護する状況があるかについて、中谷元・防衛相は「邦人が乗っているかは絶対的ではない」と修正した。集団的自衛権の行使要件の根幹がぐらつく政府を信用できるわけがない。
 参院審議入り後、首相は中国の海洋進出への脅威を強調してばかりいたが、個別的自衛権で対処可能であることが明確になった。
 首相は「(法案への)支持が広がっていない」と認めている。世論と離反して強引に成立を急ぐことは民主主義を壊す愚行である。