首相退陣表明 無責任極まる決断/最高責任者の見識を疑う

 安倍晋三首相が12日、突然退陣を表明した。臨時国会で10日に所信表明演説を行ったばかりである。12日は各会派の代表質問を受けることになっていた。その直前の退陣表明は理解に苦しむ。
 11月1日に期限切れとなるテロ対策特別措置法に基づく海上自衛隊のインド洋での米軍などへの給油活動の継続のために「局面を転換する」ことが退陣の最大の理由である。
 格差の拡大、政治とカネの問題、年金記録不備問題へのけじめならば、まだ理解もできよう。しかし、安倍首相は会見で「テロとの戦い」の継続を訴えることに終始した。国政を混乱させることにわびる言葉もなかった。
 無責任と批判されても返す言葉はあるまい。

なぜこの時期に
 安倍内閣は「美しい国づくり」を掲げて昨年9月に発足、ことし8月末に改造内閣を発足させたばかりである。
 安倍首相は参院選惨敗後も「逃げてはならない。厳しい状況になるが、政治の空白は許されない」として、世論や与野党内外からの退陣すべきだとの声に耳を貸さなかった。
 にもかかわらず、なぜこのタイミングでの退陣表明なのか。安倍政権に国民が実質的に「ノー」を突きつけた参院選後に退陣するべきではなかったか。遅きに失した決断と言わざるを得ない。
 民主党の小沢一郎代表との党首会談を断られたことも退陣理由に挙げたが、果たしてそれが理由になり得るのか。
 安倍首相は、海上自衛隊の給油活動は「国際社会から高い評価を受けている。何としても継続していかなければならない」とのテロ特措法延長への強い決意を示してきた。
 しかし、野党が過半数を占める参院で否決されるのは、ほぼ確実である。
 政府が国会に提出する方針を固めている国会承認を必要としない給油支援新法案も、首相の思惑通りにはいかない公算が大きい。
 テロ特措法に進退を懸けた首相にとってはまさに正念場である。同法の評価は別として、難問を解決し、難局を打開してこその首相である。
 自らの狙い通りにいかないからと、投げ出せるほど首相の職務は軽いものなのか。もともと首相の器ではなかったとの思いもわく。
 自らの所信表明に対する質問を各会派にさせないまま、首相を辞めることは前代未聞の出来事であり、許されることではない。
 首相はブッシュ米大統領に給油活動の継続を約束している。給油活動継続は「国際公約」とも公言している。
 退陣は、それが実現できない情勢になったことへのけじめなのか。首相就任以来の対米追従姿勢が自らを追い込んだとも言えるだろう。

成果に乏しく
 首相は教育基本法を1947年の制定以来、初めて改正し、憲法改正に向けた国民投票法も制定した。首相はそれを成果として挙げるが果たしてそうか。
 日本が危険な方向へと向かうのではないかとの不安を抱いた国民も少なくない。
 数にものを言わせた強行採決という形で重要法案を次々と成立させた。
 国民生活にとって大切な法案を、十分な審議を経ずに成立させる強硬な姿勢が国民の不支持につながった側面もある。
 沖縄の基地問題では何ら成果を挙げられなかった。
 今回の所信表明でも「在日米軍の再編については、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾け、地域の振興に全力をあげて取り組むことにより、着実に進める」と述べた。
 しかし、首相をはじめ政府は、地元の声を押さえ付けてきたのが現実である。
 政府に従う自治体などにだけ再編交付金を与える米軍再編特別措置法はその象徴である。
 安倍首相は防衛相に任せっきりで、積極的に地元の声を聞くこともなく、沖縄の基地問題解決のため、指導力を発揮することは最後までなかった。
 閣僚らの政治とカネの問題が噴出した際は、かばうことに終始し、即座に対応しなかった。首相の任命責任はうやむやのままである。政治空白を招いた責任も重大だ。
 テロ特措法延長だけが退陣理由とすれば、国民感覚からは大きくずれている。