<南風>心理学と統計学


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 東京大学理科二類から、教育学部の教育心理学科へ進学が決まったのは、2年生の10月でした。その発表の数日前に、療養中だった父が亡くなったこともあり、いろいろな意味で転機となる二十歳の秋でした。

 心理学では、たとえば子どもの協調性がどのように形づくられていくかとか、知能は大人になってからも発達していくのか、といった問いに対して、データに基づく答えを求めます。しかし、協調性や知能は、身長や体重のように直接に測ることはできません。そこで、たとえば協調性であれば、協調性の高い子どもと低い子どもは、目に見える行動の上でどのような違いがあるかを検討し、そのような行動の有無や程度を観測することで協調性のデータとします。
 このような言わば間接的なやり方での測定となりますので、そのデータが正しく協調性を反映しているか、誤差はどの程度あるか、という測定の質が重要な問題になってきます。その測定の質を評価したり、より良い測定のあり方を探究したりして、心理学の研究を基礎から支える分野が心理測定学です。そして、測定によって得られたデータを分析して、心理学的な問いに答えるための方法を提供するのが心理統計学です。
 理系から心理学に惹(ひ)かれて教育心理学科に進学した私は、心理測定学・心理統計学に出合って、迷いなくこれを専門として選択しました。大学に入るまで聞いたこともなかった研究領域ですが、その選択が必然であったかのように勉学に打ち込みました。3年生のときに、4年生の卒業研究のデータ分析の相談にのることもありました。
 卒業後、大学院修士課程2年の初めに結婚し、そのすぐ後に、米国アイオワ大学大学院の教育心理・測定・統計学専攻に編入学しました。留学中のことも、後日、書きたいと思います。
(南風原朝和、東京大学理事・副学長)