<南風>時を超える映像の力


社会
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 3年前、南米ボリビアにある“もうひとつのオキナワ”と呼ばれる県人移住地への取材が決まり、過去の素材と向き合っていた時、ある男性のインタビュー映像に心を揺さぶられた。それはその28年前に撮影されたもの―。

 1954年に第一次移民として入植した男性(故人)は、原因不明の熱病で同胞を亡くし失意に打ちのめされながらも、移住地をボリビアでも有数の農業地帯に変えた篤農家だった。男性の後ろで子弟が駆け回る中、インタビュアーは、こう尋ねる。「現地で生まれ育った子や孫たちのことを亡くなった方々にどう報告したいですか」

 すると、男性はぐっと涙をこらえ、声を詰まらせながら「子や孫たちが元気に三線を学んでいる姿を…見せたかった」と語った。わずか1分の映像だが、そこには、激動の時代を苦しみながら生き抜いた初期移民の方々の思いが刻まれていた。

 私はこの映像を携え現地へ飛んだ。そして、中学校での上映会で、カメラはスクリーンをじっとみつめる少女(男性の孫娘)を捉えた。次の瞬間、少女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。時を超えて、孫娘が映像の中の祖父と出会い、思いが届いた瞬間だった。これこそが映像の力だ。

 物語はここで終わらなかった。2年がたった昨年、世界のウチナーンチュ大会に合わせ少女が初来沖した。祖父の故郷で親族や地域の人々と日本語で会話を交わし、心を通わせた。かつて日本語を学ぶことに消極的だった少女は、祖父の思いに触れ、懸命に勉強したとのことだった。

 彼女の輝くような笑顔を見て、私は放送でこうナレーションを添えた。「祖父の故郷・沖縄が少女のもうひとつの故郷になりました」と。こうした映像を通しての出会いが私の大きな財産だ。
(平良いずみ、沖縄テレビアナウンサー)