<南風>芋・たこ・南瓜


社会
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 江戸中期の俳人・小説家、井原西鶴の一説に、女性の好物として「芋・たこ・南瓜」が紹介されている。砂糖が高価だった時代、甘いサツマイモとカボチャは人気があったらしい。実は私、田芋(ターンム)に目がない。田楽、どぅる天、どぅるわかしぃ、むじ汁などさまざまだが、素揚げに塩というシンプルなのが一番好きだ。親芋に子芋、孫芋が連なるターンムは、間もなく旧正月を迎える沖縄で子孫繁栄を願うのに欠かせない伝統食材と聞く。

 そのターンムの栽培現場を見ようと、県内有数の田芋生産地、宜野湾市大山のサンキューファームを訪ねたことがある。名前の由来である昭和39(1964)年生まれのハルサー仲間が営む田んぼでは農薬も肥料も使わない自然栽培が行われ、近くの湧き水が引かれていた。月30万トンの水量は家庭用水道代にして年間14億円の価値があるという。「水道屋をしたほうがもうかるんだけどね」と代表の宮城優さんは笑っていた。農業従事者の減少と高齢化で大山の田芋農家も減る中、豊かな水源を守りたい一心で栽培を続けているという。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)には「OKEON美ら森プロジェクト」と称して、地元の団体などと協働し、県内の自然環境の変化を調べている研究チームがある。近年の陸域の宅地化などによる海への土砂流出や農地からの化学肥料の流出が、近海のサンゴ礁に与える影響について調査している。サンゴは共生する褐虫藻(かっちゅうそう)から栄養の供給を受けるが、海水温の上昇や海水汚濁が原因で褐虫藻を失い、白化して死に至る。OISTの研究が沖縄県の赤土等流出防止対策の一助になればと願う。

 時は平成。女性の好物はさしずめフライドポテト、タコのカルパッチョ、パンプキンパイだろうか。もちろん私は田芋パイだが。
(名取薫、沖縄科学技術大学院大学広報メディアセクションリーダー)