コラム「南風」 入浴で


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 とある行政施設内の暗い廊下で、一枚のポスターに目が留まった。
「節水のため、入浴はシャワーで済ませましょう!」

 関東出身の当方が沖縄に住みはじめて、数カ月後のことである。
 このポスターを見た瞬間、当方の頭の中は「はてなマーク」でいっぱいになり、完全に機能が停止した。なぜなら、似て非なる「節水ポスター」を本土で目にしていたのをはっきりと覚えていたからだ。
「節水のため、入浴は浴槽に湯をためましょう!」
 どちらのポスターも目的は「入浴時の節水を呼び掛ける」もので、寸分たりとも違いがない。どちらのポスターも、行政機関が作成しており(必要以上に?)生真面目に作られ、根本から間違っているとは考えにくい。
 しかし、である。呼びかけている内容は全く正反対。「シャワーを使え」対「浴槽に湯を張れ」なのだ。あまりの不可解さに、しばらくの間、この疑問から自分を遠ざけていた。
 数日後、自宅の「湯を張った浴槽」内でゆったりしていたとき、「あ!」と理由の一端が理解できた。
 違うのだ。
 ここは暖かい沖縄だ。当然、浴槽には「でっぱり」いわゆる追い炊き機能がない。沖縄で「浴槽に湯を張る」ことは、「一人ずつの浴槽の湯」と「シャワー」の併用を意味する。一方、本土では、沸かし直して家族が順番に入る。かけ湯も浴槽から汲(く)み、シャワーの使用は最小限にできる。シャワーだけも可能だが、実際とてつもなく寒い。
 もちろん、どちらが正しいかという問題ではない。目的は同じでも状況に応じて考え、行動することが大切なのだ。このように筋道を立てた考えは「科学的思考」の実践版と言える。
 小さいことでも新たに考えそれを理解できたときは純粋に、楽しい。
(塚原正俊(つかはらまさとし)バイオジェットCEO)