コラム「南風」 多文化共存を目指して


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 私の15歳の息子はバンクーバーで生まれ育ち、現在地元公立校の10年生です。週末は日本語学校に通い、アニメや漫画にも親しみ、聴く音楽もJポップ、柔道を始めて4年になります。このような民族教育は当然と思っていましたが、日本で朝鮮学校が差別を受けているといったことを聞くと、他人事とは思えません。国同士の紛争が市民の差別政策につながる例として、カナダ史上でまず思い浮かぶのは、戦時日系人強制収容です。日本に行ったこともない2世、3世を含むカナダ人たちが「敵国人」として財産を没収され、内陸地の過酷な収容所に置かれました。戦後、政府は過ちを認め、1988年に謝罪と補償が成立しました。

 今のカナダは、少数民族が確固たる居場所を持てる多文化主義を掲げています。都市部を中心として多民族化が進み、2006年の調査ではバンクーバーにおける「目に見える少数派」(非白人)は42%。息子も学校では、中華系、インド系、コリア系、フィリピン系などの友人たちと学びます。
 多文化主義を下支えするのは教育です。先日、息子が来年取る教科を選ぶとき、「社会正義 social justice」「先住民学 First Nations Studies」といった教科があるので驚きました。日本の高校課程で、社会の不正を追及し、自国の植民地主義について学ぶ教科などあるでしょうか。カナダでは昨秋以来、土地や権利を奪われ、同化政策と差別にさらされてきた先住民族の蜂起とも言える「Idle No More(もう何もしないわけにはいかない)」運動がかつてない勢いで広がっています。息子の社会科の先生は、この運動を支持し「今まで戦争にならなかったのがおかしいぐらいだ」と言っていたそうです。
 過去の差別政策を反省しつつ共存社会を目指すカナダ。日本にとって学ぶ点が多いのではないでしょうか。
(乗松聡子、ピース・フィロソフィーセンター代表)