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『文章読本X』小谷野敦著 大作家たちをこき下ろす芸

 

 タイトルにそそられて買ったが、系統だった文章の指南書というよりも、近現代の作家たちの文章をめぐる評論家のエッセー集と言ったほうがいい。

 文章読本を読む最大の快楽は、賛辞とともに紹介される名文、美文の数々を味わうところにあると思っていたが、本書の真骨頂はその真反対、酷評と悪口と憎まれ口にある。著者一流のあけすけな物言いで文豪や流行作家たちをこき下ろしている。

 まず文章の手本として称揚されてきた志賀直哉の文体を「時に異常だと思うが、いいとは別に思わない」。山岡荘八については「歴史作家の中で、飛びぬけて文章がひどい」と具体例を挙げて批判し、有吉佐和子に至っては、その小説の一段落を添削までして見せている。

 司馬遼太郎、宮尾登美子、中村うさぎらの文章を「うまい」と褒めはしても、具体的な理由を挙げていない。だから一見、主観と好みで書き連ねているだけのようにも見えるが、古今東西の作家や文学にまつわる蘊蓄に圧倒されて、思わず傾聴してしまう。たとえば谷崎潤一郎や三島由紀夫の『文章読本』が対象とした読者は雑誌に投稿する少女だった、という指摘にはへーっと驚いた。

 著者の文章に対する姿勢はきわめて明快だ。世にはびこる「名文・美文信仰」を有害、危険と断じ、内容があいまいな名文よりも論理的で正確な悪文を書け、図で示したほうが分かりやすいなら図で示せ、とまで言っている。しばしば痛快、時に不快、ところどころ不可解である。

 (中央公論新社 1500円+税)=片岡義博

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(共同通信)