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低予算でも強い映画を撮る人々 フィリピン映画やキム・ギドク監督

 フィリピン映画『普通の家族』のエドゥアルド・ロイ・Jr監督(右から2人目)=2016年11月24日、第17回東京フィルメックス会場

 ▼「超低予算で傑作ができるほど、映画は甘くない」というベテラン映画人のお話を今年、新聞記事で紹介した。映画製作費の7割以上が人件費で、予算が少ないほど、撮影日数は短くなり、現場での試行錯誤や追加撮影などの余地はなくなっていく。お金はあるに越したことはない。ただ、低予算でも面白い映画を作る人は時々いる。

 ※日本では大作と低予算作品の二極化が進み、5千万円ならもはや低予算ではなく、良い方のようだ。非大手の映画は、人気者が出ている映画でも3千万円程度が数多くある。スタッフの人数や俳優のギャラにもよるが、一般的に製作費2千万円だと1週間~10日で撮り上げなければいけない。

 ▼11月の「第17回東京フィルメックス」で、またしてもフィリピン映画にやられた。エドゥアルド・ロイ・Jr監督の『普通の家族』は、製作費300万円、撮影8日間。マニラで路上生活を送る若い夫婦の話で、ドキュメンタリーのようなライブ感の中、スリルあるドラマが社会問題を露出させながら展開する。傑作とまではいわないし、日本より人件費が安いだろうが、300万円って何だよ!と嫌になるほどのクオリティの高さである。

 先月当欄で紹介したフィリピン映画『バードショット』にしても、プロデューサーの話からすると製作費は1千万円に満たないようだった。

 ▼同じくフィルメックスで上映された韓国のキム・ギドク監督新作『The NET 囚われた男』(来年1月7日以降、全国順次公開)は10日間で撮影。南北のイデオロギー対立が社会の底辺で暮らす者に何を及ぼすかを問う、強い映画だ。

 「世界中がたたえるキム・ギドク監督が、たった10日間で撮ったと聞いて驚いた。(日本より映画へのサポートが進んでいる)韓国でさえお金がないという問題が起きている」と、イランのアミール・ナデリ監督が言った。

 ただ、ギドク監督に筆者が直接聞くと「私の映画は政府が嫌がるような作品なので、大手はなかなか関わってくれない。以前から製作費は自分で準備して、少ないスタッフで、短い日数で撮るしかないんです」と淡々と語った。ただ、今作の脚本開発には5年ほど掛けている。

 ギドク監督は既に、東京電力福島第1原発事故後の福島で、「STOP」という劇映画も撮り終えている。原発事故の恐怖について問う作品で、撮影や録音などはギドク監督が一人でやった。どうしても作らねばならないという思いがあり、それを何としても作る監督の一人である。日本でも来年3月ごろ、公開できそうだという。

 ▼さて、ナデリ監督は「日本映画については、心配している」と大声で言った。もともと声が大きい人ではあるが、先月当欄で書いた通り、日本映画が心配されるのは至極当然。

 とはいえ、フィルメックスのコンペに出品された日本映画『仁光の受難』は、自主製作映画には珍しく、お金が掛かるはずの時代劇に挑み、映像はリッチだった。庭月野議啓(にわつきの・のりひろ。本名だそうです)監督は、製作費1千万円で、4年の歳月を掛けたという。撮影は庄内映画村(山形県鶴岡市)を借り、撮影後の視覚効果(VFX)の作業を監督個人でたっぷり時間を掛けたのだという。

 ▼大手の映画なら、セットが充実し、VFXはプロが集まって仕上げることになるが、それで良作が生まれるかというと、その通りでもない。映画をビジネスとして捉えて出資する企業が多いほど、冒険はできなくなり、紋切り型になる危険はつきまとう。その危険を逃れた幸せそうな事例を二つ挙げると…。

 ▼アカデミー賞で台風の目になりそうな『ラ・ラ・ランド』(来年2月24日公開)のデイミアン・チャゼル監督は、もともと今作を撮りたかったが、そう簡単にはたどりつけず、自身の実力を分かってもらうために『セッション』を撮った。セッションを撮らせてもらうために、まずは短編のセッションを撮った。

 ギャレス・エドワーズ監督は、低予算の『モンスターズ 地球外生命体』で注目され、『GODZILLA ゴジラ』を撮り、『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(12月16日公開)の監督に抜てきされた。スター・ウォーズほどの超大作で、監督にどれだけの自由があるのか聞くと、「ハリウッド大作にはなかなかない、とても自由でユニーク、大胆なものが作れた」とうれしそうに語った。

 ▼日本では、独創性を消さず、過酷な低予算でもない規模の良作が、もっと生まれる環境ができるといい。製作費5千万円以上が対象の助成金制度の条件を少し緩和して、若手作家の育成に機能してほしい。「どうしてもこれを撮らなければ」という切迫や志がある人は、労を惜しまず何としても映画を撮り、他人に見せてほしい。

 (宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第93回=共同通信記者)

 ▽余談だが、筆者の名刺を見たギャレス・エドワーズ監督が「共同通信のマークって、まるでデス・スターだね」と言うのでびっくり。「言われて初めて気付いた。ダークサイドに落ちていたのか…。何だかうれしい」


(共同通信)