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真ん中からは見えない景色

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 太平洋戦争中の広島を描いたアニメ映画『この世界の片隅に』。大手配給会社による『君の名は。』や『シン・ゴジラ』が2016年映画界の話題をさらう中、クラウドファンディング(CF)で支援者を募った小さな作品が、感動を広げている。

 公開前の10月下旬、片渕須直監督にインタビューした。構想から6年以上をかけた作品への思い入れを語ってもらった。印象的だったのは、テーマ選びもキャスティングも時流にこびない姿勢だ。

 こうの史代さんの原作との出合いは、片渕監督が09年に世に放った高樹のぶ子原作の『マイマイ新子と千年の魔法』にさかのぼる。昭和30年代の山口県防府市を舞台にした同作。主人公の母親を描きながら「戦時中でもこんなに穏やかな人がいるんだ」と驚いた。片渕監督は1960年生まれ。戦争を直接知らない世代の作り手として、「ありふれた人を通して描けば、『戦時中』を理解できる、実感を持てるのではないか」と考えたという。ちょうどその頃、紹介されたのが漫画の『この世界の―』だった。

 インタビューでは静かな口調の端々に、今の映画界に対する強い思いが感じられた。「現在のアニメーションは、戦争ものとか、こうした作品を好む観客層をそもそも相手にしていないところがある」「戦争中のドラマとかいろいろ作られているが、様式化され、紋切り型になっていると感じる」。今回の作品では物語をこね回すのではなく、こうのさんと情報交換し、現地に足を運んで時代考証を徹底することに時間を割いたという。「この作品はある種のドキュメンタリーだと思う」との言葉に、遠回りの末にたどりついたという自信がうかがえた。

 主人公すずの声に女優の、のんを起用したのもこだわりの表れだ。すずは18歳だが、「この役はトリッキー。普通のかわいらしいティーンエイジャーの娘さんではなく、10代の雰囲気を残したコメディエンヌにやってほしかった」。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」で脚光を浴びた経緯から、「自分はコメディーで始まったのだから、この道で生きていく」と自覚していたのんに注目したという。のんは事務所とのトラブルで、7月に芸名を能年玲奈から改名した。そんな騒動など意に介さず、役を託した。

 インタビューでぜひ、聞いてみたいことがあった。長期の安倍政権によって治められている今の日本を背景に、「戦争に向かう雰囲気がある今の時代に、この作品を放つ意味は何か」ということだ。

 片渕監督は、戦争が本当に起きるかどうか分からないが、近年、災害はずっと起き続けているとした上で、「生活者目線に立つと、空襲で自分たちの街が焼けてしまうのは、災害以外の何ものでもない」と言い、「しかも戦争は約束された災害であることが悲劇だ」と付け加えた。

 その答えはまさに、監督自身が「この世界の片隅」に立っているからこその言葉だった。真ん中からは決して見えない景色を、この作品は教えてくれていると思う。(共同通信東京エンタメ取材チーム記者・瀬野木作)


(共同通信)