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『Aさんの場合。』やまもとりえ著 誰もべつに、悪くなんかないよ。

 

 未婚と既婚と子持ち女性が水面下で抱く、モヤモヤとこんがらがった感情。おそらく『負け犬の遠吠え』発売以降、幾度となく語られてきたテーマだ。時に排他的ムードでそれぞれが「仲間」だけで盛り上がり、時に論争が勃発したりと、あらゆる場所で手を替え品を替え語られてきたこの命題。しかしどれだけ語られようとも食傷気味になるどころか、一向にペースダウンの気配はない。

 そんな、もはや堂々めぐりになりつつあるこの話題に、新しい風を吹かせるであろう一冊が発売された。

 イラストレーター、やまもとりえの初の著書となる(おめでとうございます!)『Aさんの場合。』。未婚のAさん、子持ちのBさんという同じ会社で働く二人を軸に、その他登場人物の視点を交えながら描く群像劇だ。

 「Aさんは仕事ができて責任感も強い。でも協調性がないっていうか、思ってることがすぐ顔に出ちゃう」「繊細な子だ……」(課長談)、「Bさんは人あたりもよくて要領もいい。けど可もなく不可もなく、言ってしまえばつまらん優等生タイプかな……。そういう人も必要だしね」「ただ最近、『仕事も育児もがんばる私』に、酔ってるようにも見えちゃうのよね。それがAさんのはなにつくのかも」(同上)……。

 みんなただ、自分の暮らしに、仕事に、今に、必死なだけだ。一生懸命なだけだ。ただ少しだけ、想像力が向こうまで届かなくて、自分を客観視する余裕がなくて、自分の選択は間違ってなかったって確認したいだけで……。それだけで、誰もべつに悪くなんかない。

 誰のことも批判せず、ただ静かに、登場人物全員を、淡々と描いている本書。そういえば物語が終盤に近づくにつれて、登場人物が少しずつ引きで描かれているんだけど、それはわざとかな。それとも自然とそうなったのかな。登場人物全員から等しく、少しずつ離れた距離から描いているのが印象的だ。

 どうか、AさんにBさんに、幸あれ。私にもみんなにも、幸あれ。そう願いたくなった。

 (祥伝社 1200円+税)=アリー・マントワネット

Aさんの場合。
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(共同通信)