エンタメ

『サーモン・キャッチャー the Novel』道尾秀介著 辛抱の先に広がる大空

 

 この本を手にとってしまったら、悪いことは言わない、一気読みをおすすめする。「第一章」はちょっとキツいかもしれない。そこここに点在する人々の、それぞれの日常がひとつずつ展開されるだけだから。でもどうだ、それらがなんとなくつながりを見せてくる「第二章」以降の展開ときたら。登場人物の数だけ物語が用意されているのではなく、ひとつの出来事が、登場人物それぞれの視点と都合から展開してゆく。その人とこの人のつながりの、暴力的なまでの潔さ。まじか、そことここを、こんなふうにつなげちゃっていいんだ! その無謀なつながり具合にアハハと笑い、そしてある段階を超える頃には、何だかもうあんまり驚かなくなる。ああ、ねえ。そりゃあつながっているでしょうとも。だってこの物語の登場人物なんだもの。つながっていないわけがないじゃないの。半分麻痺した脳みそと、大空のように寛大な気持ちのまま読み進めると、大空のように寛大なラストが待っている。これはあれだ、思うつぼってやつだ。どこかでほくそ笑む著者に向かって一礼して本を閉じる。ここまでが、この本が用意したフルコースディナーの一連である。

 物語の軸になっているのは「カープ・キャッチャー」という釣り堀だ。池には鯉が泳いでいて、黒い鯉や色のついた鯉にはそれぞれポイントがついていて、釣り上げた者たちはそれ相当の景品を受け取る。そこでアルバイトをしている若い女の子がいて、釣りの神様と崇められる常連客がいて、初めて訪れた引きこもりの青年とその妹は、怪奇ビデオの撮影に躍起になっている。断続的に連ねられるそれらの光景たちは、しかしそう簡単には結びついてくれない。誰かが再登場するたびにページを戻る。ああ面倒くさい、やめちゃおうかなと本棚に戻しかける、私のように登場人物の名前を覚えるのが苦手な読み手に伝えたい。ちょっと待って! 大丈夫だから。すみずみまで覚える必要はないから。あとで必ずわかるようになるし、あとで必ず、つながるから。そしてそれが、ちょっとすごいことになるから。

 といっても、ここで起こるのはきらびやかなスペクタクルとは程遠い。名探偵が真犯人をずばり言い当てるわけでもまるでない。出て来るのは気弱な、そう、至って気弱な男たちと、それぞれの事情で何ともたくましい女たちだ。彼ら彼女らが出会い、ずぶ濡れのどろどろになって、ある一夜を共にする。あとはもうみるみる、残りページが減っていく。ちょっと寂しい。

 この本は道尾秀介と、劇作演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチが「コンセプト」を統一し、かたや小説を、かたや映画を制作するという企画のもとにあるらしい。映画版か。誰がどの役をやるんだろう。今から楽しみでならないのだ。

 (光文社 1500円+税)=小川志津子

サーモン・キャッチャー the Novel
道尾 秀介
光文社
売り上げランキング: 47,749


(共同通信)