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『ブスの本懐』カレー沢薫著 あなたは「ブス」か「非ブス」か

 

 タイトルからわかるように、ありとあらゆる「ブス」に関する生態や考察が連ねられている。この本を開いた時点で、まず読み手の前に分かれ道が提示される。自分の立脚点を「ブス」に置くか、それとも「ブス以外」に置くか。「ブス」の生態を「いるいるー」と読むか「わかるわかるー」と読むか。その選択ひとつで、この本の意味合いは大きく変わってくるだろう。

 だってもう目次からしてけちょんけちょんなのだ。「ブスはブスであること以外、何も続かない」「デブが道に転がっていてもぽっちゃり好きが拾ってくれることはない」「ブスの頭に載っているのは『クソ』という名の王冠だ」。ああ容赦がない。なさすぎる。「ああ容赦がない」とか言ってる時点で私は「ブス」側に立脚しているのだなということを自認。心静かに読み始める。

 著者自身は「ブス」側の立脚点で語る。圧巻なのは、よくぞここまで「ブス」の生態を観察し分析しきっているなということ。美人になりたいブスはだいたいサプリとか自然派食品とかそういうものを口にしているだろうが、それでは「スタイルが良く、肌が綺麗で天使の輪を持つブス」になるだけだと著者は断言する。異性に好意を寄せられることに慣れていないから、男女交際における何らかの落とし穴を想定して逡巡してしまうブスを「疑心暗鬼のブス」「かなりキツい」と評する。「ワーキングプア」にならって「ワーキングブス」についても考察する。ああ、笑いたい。他人事として笑いたいのに、笑った瞬間に放たれた矢はまっすぐに自分に突き刺さる。これって……この本って……一体誰が喜ぶんだろう。男子だろうか。そうかもしれない。私は大学時代、初めて飛び込んだ「合コン」なる催しで、私たちの顔を見渡した男子はそれはそれはがっかりし、女子がひとりずつ席に着くたびに小声で「……ナス……カボチャ……インゲン……」と順番に野菜に例えられた経験の持ち主だ。彼らは笑っていた。うん、笑ってたなあ彼らは。ああいう20代の、無邪気にブスを品評できる立場にいる(と自分では思っている)男子たちが、この本をげらげら笑いながら読むんだろうか。

 興味深いのは「宝塚歌劇団 ブスの25箇条」のくだりである。宝塚歌劇団には「こういう人はブスです」という有名な金科玉条があって、それは例えば「笑顔がない」とか「目が輝いていない」とか「いつも周囲が悪いと思っている」とかなのだが、それらについて著者が引っかかるのは第9条、「自分がブスであることを知らない」である。著者はそれに対してただひと言、「知ってるわ!」。極めて痛快である。

 読み進むうちに、ブスには何というか、いじけるのでも美人を目指すのでもない、ブスなりの道みたいなものがあるような気がしてくるから不思議だ。「あるような気がしてくる」というのは、つまり、ないであろうことを知っている、ということでもある。じゃあブスはどうやって生きていくのか。答えは簡単だ。自分がブスであることを、一時的に横に置いといて、とりあえず明日に向かうのである。

 (太田出版 1000円+税)=小川志津子

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(共同通信)