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『The NET 網に囚われた男』 庶民の悲劇、抑制の効いた語り口で

 (C)2016 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

 以前は北野武と比較されもした韓国の鬼才キム・ギドクだが、近年はすっかり社会派監督。しかも一作ごとにその色合いを強めている。今回彼が扱うのは、朝鮮半島分断=国家同士の対立に翻弄される、政治思想など持たない庶民の悲劇である。主人公は北朝鮮の漁師。網がエンジンに絡まって韓国側に流されてしまった彼は、韓国警察による拷問と亡命の強要に耐えながら、妻子の元に一刻も早く戻りたいと願うが…。

 もともとギドクは説明を排して視覚に訴え掛ける手法には定評があったが、いつの間にこれほど抑制の効いた語り口を手に入れたのだろう? 暴力は役者が演じるよりも想像させる方が“痛い”という悟った演出や、ウェルメードなのに臨場感に満ちた映像、芸術性と社会性が絶妙の均衡を保つ世界観…。その洗練された表現からは、もはや鬼才というより巨匠の風格が漂う。

 何よりも、北朝鮮に戻った主人公が全く同じ仕打ちを受ける後半の展開が見事。そこから特定の国家やイデオロギーの問題を超えて、個人や弱者が常に踏みにじられる存在であり、しかも踏みにじる側も個人や弱者であるという普遍的な社会矛盾が浮かび上がる。目に見えるものに仮託して目に見えないものを描き続けてきたギドクの試みは、漁師が網にからめ捕られるというアイロニカルな設定を得て、ひとつの極みに達した。★★★★★(外山真也)

監督・脚本・撮影:キム・ギドク

出演:リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン

1月7日(土)から全国順次公開


(共同通信)