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<隠れた名盤>ヒグチアイ『百六十度』 圧巻のピアノ弾き語り

 ヒグチアイ『百六十度』

 平成元年生まれでピアノ弾き語りを中心に編曲もこなす女性シンガーソングライターのメジャー・デビュー作。タイトルは、人間の視野の範囲外を意味するそうで、まさに本作を象徴する言葉だ。

 1曲目の『誰かの幸せは僕の不幸せ』以降の全11曲、相手を想うがゆえに言えない想いを綴った楽曲がとても多く、他方、『猛暑です』のように赤裸々な恋愛描写もあり、“こう言えばもっと好かれるのでは”と助けたくなるほど不器用な人物像が浮かぶ。しかし次第に、器用な人は幸せなのかと問われているようにも聞こえる。

 圧巻はピアノだけで歌った『備忘録』。歌うようになった理由や上京後の心境が自伝風に綴られているが、静かな前半から一変しラストで「どうか自分よ忘れるな」と絶唱する姿に、自分の“百六十度”を見つめ直したくなった。

 シンプルな演奏や繊細な声は片桐麻美や矢野絢子を想い出した。本作を聴けば、自分が傷つかぬ為よりも、他人を傷つけぬ為の言動を意識するようになるはず。

(テイチク・2315円+税)=臼井孝

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(共同通信)