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『ぼくのとなりにきみ』小嶋陽太郎著 心の中の少年少女を呼び覚ます冒険小説

 

「自由研究やったか?」

 親友のハセからの電話で、中学一年生のサクは夏休みの宿題を終えていないことに気付く。夏休みの終わりまで、あと半日。

 各自、模造紙一枚を埋めなくてはいけないこの宿題、二人は「作戦会議」を経て、家の近くにある古墳を共同研究することに。

「一枚に古墳の絵とか図をでっかく描いて、もう一枚に感想を書けばいい。『実際に歩いてみて、歴史の重みを感じました』とか、なんとか」

 早速、山の中にある古墳に出かけた二人。しかしそこで立ち入り禁止になっている洞窟を見つけ、暗号らしきものが書かれた一枚の紙を拾ったものだから、自由研究は宝探しへとスライドしてしまうのだった。

 夏休みの終わり、親友との絆、家の近くに残る謎多き伝説、暗号と宝探し、どれもこれも、少年たちの冒険譚には欠かせない要素だ。意地悪な言い方をすればありきたり、とも評することができるかもしれない。さらにそこに転校してきて間もない女の子が絡んできて、物語は出来過ぎなくらいの青春小説風になっていく。

 しかし一方で、ありきたりであろうが、出来過ぎだろうが、そんなのはこの小説にはどうだっていいことだとも強く言っておかなければならない。

 物語の外枠としては定型であったしても、そこに生きる少年少女たちの瑞々しい輝きは何かと比べることができない美しいものだ。それはあの年齢のあの季節の中にいる彼ら特有の美しさでありながら、かつて少年少女だった私たちの中にも、欠片として確かに残っているものでもある。

 すべての読者が古墳の研究はしなかったとしても、中学時代に親友がいなかったとしても、ほろ苦い初恋に身を焦がさなかったとしても、この小説はまぎれもなく私たち自身の話なのである。

 そのように機能するためにも、物語は定型でなければなかった。しかし当然ながら読者の胸にどのように響くかにおいて、定型は存在しない。あなたの心にどれだけ初心で無垢な少年少女が残っているか、本作を読めばきっと分かるはずだ。

(ポプラ社 1400円+税)=日野淳

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(共同通信)