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『失われた地図』恩田陸著 新直木賞作家のもう一つの顔

 

 今年の一月、『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞を受賞した恩田陸さん。

 ピアノコンクールに挑む天才たちを描いた受賞作の、瑞々しく豊穣な世界にうっとりされた方も多いと思うが、受賞後第一作となる本作は『蜜蜂と遠雷』とは真逆と言っても過言ではない程、ダークでヘビー、そしてシニカルな味わいの連作短編集。とはいえこれも、作風の幅広い恩田さんの得意とする世界ではあるのだけれど。

 物語の舞台となるのは六つの街。錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木。一見するとなんの関連性もなさそうなこれらの街、実はかつて軍の重要な施設があったという過去で繋がっている。

 世の中に戦争への気運が高まると、これらの街のどこかに「裂け目」が生まれる。そしてそこから「グンカ」という兵士の亡霊、ゾンビのような者たちが溢れ出てくるのだ。「煮しめたフキみたいな」色の軍服を着たこの「グンカ」、とにかく怖い。

 主人公である元夫婦は、血筋として継いだ特殊能力を駆使して「グンカ」を退治し、「裂け目」を縫うという任務に就いている。錦糸町では堀の流れる公園に、川崎では工場地帯の上空に、呉では海を臨む長い階段に「裂け目」が生まれる。彼らはカメラバックから色鮮やかな蝶を放って「グンカ」を追い払い、髪から抜き取った簪で大きな「裂け目」をざくざくと縫っていく。主人公たちが必殺仕事人ばりの活躍を見せるこのアクションシーンが絵画的、映画的でとても格好よい。そして美しい。

 戦争への気運が高まるという時代の空気を写しつつも、現実とはまったく異なる物語世界を鮮やかに細密に描き出す、恩田さんの筆捌きたるや!

『蜜蜂と遠雷』を楽しんだ後に本作を読むと、こんなに違う世界を作り上げられるなんて、作家の頭の中はいったいどうなっているの?と思うに違いない。

(KADOKAWA 1400円+税)=日野淳

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(共同通信)