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『カウントダウン』真梨幸子著 「イヤミス」と「終活」の相性

 

「イヤミスの女王」が「終活」を書く。その時点で期待度はかなり上昇している。病を得た主人公が、湧き上がる負の感情をどんなふうに着地させ、どう納得して「その日」を迎えるのか。もしくは納得しないまま逝くのか。「嫌な気持ちにさせるミステリー」の女王だもの、後者も普通にありうるのだ。

 主人公は「お掃除コンシェルジュ」としてテレビ出演やコラム執筆など、八面六臂の活躍を見せる五十路女性。ある日、歩道橋から転げ落ちたときに撮ったレントゲン写真で、喉に末期のガンが見つかる。余命は半年。さあどうする。

 彼女はあらゆる悲しみや憤りを、とりあえず後回しにしながら生きてきた。いや、「その場しのぎ」とでも言おうか。しっかり対峙するのではなく、相手にきつい言葉をぶつけたり、あるいはコラムのネタにすることで、明日への推進力を得てきた。けれど終活するにあたって身辺整理していると、否が応でもそれらと対峙しなければならない。忘れ去っていた幼い日の思い出が蘇る。若い頃に敵視していた同僚のことも。ああひどいことをしてしまった、しかも今までそれを思い出すことすらなかった。そんな事実がぽろぽろとこぼれ出す。

 特大なのは、妹と母への思いだ。いつだって自分は家族からは爪弾きだと、主人公は思っている。自分との別れを選んだ夫が、次に結婚したのは自分の妹。彼が実家でマスオさん状態で暮らし始めたため、主人公には帰る場所がない。だからがむしゃらに働くしかない。夫と買ったマンションの他に、青山に一室構えるまでに至った主人公。いまやゴミ屋敷と化したかつての愛の巣を、片付けて手放すことが終活の大きなタスクとなる。

 後半は、これまで名前が上げられてきた、過去に主人公と出会った女たちの本心が物語を動かす。主人公の人生の地中深く渦巻いてきた黒いどろどろが、一気にぶわあっと噴出する。黒いどろどろは比喩でも何でもなく、とても具体的に彼女に襲いかかる。そしてそのどろどろは、主人公が終焉を迎えてもなお、噴出することをやめない。噴出し続ける。そして最後に明かされるのは、一番古くから噴出し続けてきたどろどろ。その執念に、息もつけない。

 人の心を巣食うどろどろは、晴れることがない。笑顔ではしゃぎあう者同士でさえ、その笑顔の下にどろどろを住まわせている。何らかの方法で、きっちりフタをして。はあ生きるって大変。無難に、そうっと生きていこう。そんな決意をしたところで、どろどろは散らない。どうひっくり返ったって、人は「無難にそうっと生きているふりをする者」でしかないのだ。

(宝島社 1300円+税)=小川志津子

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(共同通信)