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『パーソナル・ショッパー』 別人になりたいという欲望がやがて…

(C)2016 CG Cinema - VORTEX SUTRA - DETAILFILM - SIRENA FILM - ARTE France CINEMA - ARTE Deutschland / WDR

 黒沢清がフランスで撮った『ダゲレオタイプの女』を思い出した。鬼才オリヴィエ・アサイヤスが、昨年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞したフランス映画だ。アサイヤスといえば、『夏時間の庭』がヒットして日本でも知られる監督だが、「カイエ・デュ・シネマ」誌の批評家出身で、いわゆるシネフィル系の映画作家。黒沢もまた、ゴダールはじめカイエ出身者が起こした潮流“ヌーベルバーグ”から多大な影響を受け、強い作家性と、ホラーなどジャンル映画とのハイブリッドで世界に認められた監督である。

 “パーソナル・ショッパー”とは、忙しいセレブに代わって洋服やアクセサリーを買い付ける主人公の職業のこと。ある日、彼女のケータイに、試着を禁じられているが故に着てみたい、別人になりたいといった欲望を刺激するメッセージが届き始め…。

 合鍵をあずかる彼女は、誰もいない部屋に一人で上がり、扉(多くはガラス戸)や窓、カーテンを開ける行為を繰り返す。何て映画的なシチュエーションなんだろう!とウットリさせられる。鏡やタバコ、ケータイといった小道具の使い方も緻密だし、何より、反復される扉や窓の開閉が後半に生きてくる。小津安二郎の映画を彷彿させる全く同じ構図とカット割りの反復だ。黒沢が小津を愛してやまないように、アサイヤスも小津映画が好きなのだろうか? そんなことを考えずにはいられない、神秘的で美しい傑作スリラーである。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス

出演:クリステン・スチュワート

5月12日(金)から全国順次公開


(共同通信)