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『インタビュー』木村俊介著 一球入魂の325ページ

 

 全部で、325ページ。厚さ的には、2センチに近い。余白と呼べる余白は、ほぼない。章替わりさえもどかしいように、著者は自らが20数年間で獲得してきたインタビューの極意を、すみずみまでみっちりと、読者に手渡そうとしている。

 本を開く前、というか手に取ること自体、実はちょっとだけ怖かった。私もだいたい同じくらいの間、インタビューを生業としてきた身である。こんなふうにメソッドとして体系化できるほどではないけれど、ある程度の信条というか、「私はこうする」が積み重なっている。そしてまた、この著者の仕事を、私は少なからず尊敬している。その人からダメ出しをされて、長年の「私はこうする」を覆されてしまったら、人生のちゃぶ台がひっくり返ってしまうのではないか。買うか、やめるか。いや、買うか。買ってしまった。買ってしまったんである。

 本書は2つの章に分けられている。ひとつめは「道具としてのインタビュー」。著者が積み重ねてきた、いわゆるインタビュー術を詳細に記す。もうひとつが「体験としてのインタビュー」。インタビューの実感を通してこの世界を俯瞰する、そんな視点を展開する。そんなに教えてくれちゃっていいの? と思うほど、著者は自身の経験と実感を詳らかにする。だからこの著者がどんなインタビューをするのか、それが質感で伝わってくるのだ。

 おそらく、ごく素朴に相手を訪れる。取り出すべき最小限の道具をてきぱきと並べ、レコーダーが回り出す。「うわあ、それは特ダネですねえー!」とか「いやあ、いいお話を聞きましたあー!」的な、過度な拍手やリアクションはない。彼の眼差しは一点に注がれている。相手への深い理解欲。この人にしか見えていない景色を見て伝えるのだという信念。

 書かれてあることは、何せストイックである。自分の人生の多くの時間をこの仕事に注いできたけれどまだ足りない、と著者は実にあっさりと言う。一方で、インタビュアーとしては冷や汗がにじみ出そうな沈黙についても率直に書かれている。そして「日常会話にも同じことが言えますよね!」的な、安易な敷衍も見当たらない。ベクトルは、まっすぐに一方向。規模や経験値はどうあれ、インタビューという代物に、何らかの志を持って取り組もうとする人にめがけて、渾身の一球が投げ込まれている。そして取材現場で起こりうる出来事の、一瞬一瞬についての詳細な記述。まるでピッチャーが、自身のピッチングフォームを超コマ送りで解説するみたいだ。

 手に取るまでは怖かった本を読み終えて私は、救われた、と思った。ダメ出し本なんかじゃ全然なかった。書き手が磨き抜いた信念の言葉は、読み手を萎縮させたりしない。自らの持ち駒をすべてさらして、著者は怖れを払拭してくれた。代わりに私の中に残ったもの。それは、勇気だ。

(ミシマ社 2200円+税)=小川志津子

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(共同通信)