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対面小売り窮地 ネット通販隆盛で大量閉店

米国のネット販売の推移

 【ワシントン清水憲司】米国の小売業界が業績悪化に苦しみ、大量閉店に追い込まれている。米ネット通販大手アマゾンといったオンラインショッピングに来店客を奪われたためで、スポーツ用品店など専門店の経営破綻も相次ぐ。大量閉店が不動産市場を変調させ、金融市場の波乱要因になる恐れもある。

 「若い世代は家電もオンラインで買ってしまうから」。南部バージニア州の百貨店シアーズの家電販売員ローマン・ファゼルさん(29)はため息をつく。ネット通販に見劣りしないよう値下げにも応じるが、「みんな忙しすぎるのか、来店してくれない」。同じショッピングモールに入居していた同業のメーシーズが1月に閉店し、モールの半分が空き家になったため、客足は一段と落ちた。

 ネット通販の隆盛は、全米に店舗網を張り巡らす百貨店業界を苦境に陥れている。メーシーズは「買い物トレンドの変化は小売業者全体にとっての試練だ」(テリー・ラングレン会長)として、730店中68店の年内閉店を決定。経費を削減し、ネット販売強化に向けた投資に充てる方針だ。シアーズはグループ全体で約1400店を展開してきたが、今年前半で150店を閉鎖。約1000店のJCペニーも138店を閉店する計画で、業界の縮小傾向に拍車をかける。

 昨年は大手スポーツ用品店や家電量販店も経営破綻した。百貨店より豊富な品ぞろえで生き残りに有利とみられていたが、専門店業界にも影響が出ている。

 元シアーズ役員で、コロンビア大のマーク・コーエン教授は「小売業界は転換点を迎えた」と話す。百貨店業界がネット通販を強化しても従来の来店客がネットに移るだけで、物流コストの点でもアマゾンにはかなわないといい、「多くが不採算店というのが現実だ。数千店が閉店リスクにさらされている」と指摘する。

 ◇金融市場混乱も

 大量閉店は金融市場にも混乱を起こしかねない。米国では商業用不動産ローン担保証券(CMBS)と呼ばれる証券化商品を発行し、ショッピングモールの建設費用を調達するのが一般的だが、モールの収益力低下がCMBSの下落につながる恐れがあるためだ。

 CMBSはホテルやモールなど商業用不動産に対する融資をひとまとめにして証券化したもので、投資家らに販売される。投資家は不動産融資の返済を原資に元利払いを受ける。

 ショッピングモールの場合、中核テナントの百貨店が撤退すると、モール全体の集客力が落ち、建設費用の返済が遅れたり、返済不能に陥ったりする可能性が高まる。

 2008年のリーマン・ショックの要因となったのは、低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)をまとめた証券化商品だった。米調査会社モーニングスターのリー・オーバビー氏はCMBSについて「不動産価格が上昇しすぎた恐れがあり、投資家は(資金投入を)後退させつつある」と話すものの、リーマン・ショック時と違って投資家は巨額の借金をしてまで投資をしていないことから「おそらく危機的な状況にはならないだろう」と予測している。

 ◇キーワード・米国のネット通信販売

 米商務省の推計によると、昨年のネット通信販売額は3949億ドル(約43兆円)となり、前年比15.1%増と大きく増加した。全体の小売売上高の約5倍のペースで伸びており、全体に占める割合も10年前の3%前後から、昨年は8.1%に拡大し、右肩上がりの成長を続けている。

 けん引役の米ネット通販大手アマゾンの2016年1〜12月期の売上高は前年比27%増の1360億ドル。1994年に書籍販売でスタートしたが、家電や生鮮食料品などにも範囲を広げ、音楽や動画配信も手がけるなど売上高は10年前の10倍以上に膨らんだ。実売の書店をオープンさせたほか、コンビニ店「アマゾンGo」も計画するなど小売店の展開も検討している。


(毎日新聞)