社会

被害者も参加し「バリアフリー」映画

「心のバリアフリー」テーマにした映画について話し合う池田さん(右)と、帆根川さん(左)、林さん(中央)=東京都千代田区で、根岸基弘撮影

 ◇心の壁壊し 一歩を

 障害者やがん治療の経験者(サバイバー)らも生きやすい社会にしようと、当事者らが「心のバリアフリー」をテーマにした映画作りに取り組んでいる。車椅子生活の女性を主人公に、建物や設備などハード面だけでなく一人一人が助け合うことが大事だと伝えるストーリー。スタッフには、19日でちょうど10年になる東京・渋谷の温泉爆発事故で障害を負った池田君江さん(42)がいる。

 映画を作っているのは有志団体「バリアフリー・フィルム・パートナーズ」。代表の帆根川廣監督(44)は、2015年に劇場公開された骨髄移植がテーマの映画製作をきっかけに、障害を持ちながら社会で活躍している人たちと知り合った。

 その中の一人が池田さん。温泉施設「シエスパ」のアルバイトを始めたばかりの頃に事故に遭い、脊髄(せきずい)を損傷して車椅子生活を送っていた。

 事故後、打ちひしがれていた池田さんは、トレーナーの「行けないところなんてない」との言葉に励まされて外出するようになったが、飲食店に車椅子利用を断られる現実に直面した。しかし、近所の串かつ屋に勇気を出して行ったところ、従業員が段差のある場所では車椅子を持ち上げ、狭い場所では客に声をかけて空けてくれた。「心遣いで物理的な障害は乗り越えられる。大切なのは心のバリアフリーなんだ」と気付いた。

 誰もが安心して出掛けられる社会を目指そうと、会社を09年に起業。障害者の利用を歓迎する飲食店に認定ステッカーを配る事業や、店の段差や入り口の幅などの詳しい情報を調べられるサイト(http://www.heartbarrierfree.com/)の運営などに取り組んだ。

 映画は事故で足に障害を負った女優が、同じく車椅子を使う医師らとの出会いを通じ、自分の心にもあった障害者への偏見に気付いて成長していく物語。池田さんは脚本作りに協力し、自身や仲間の体験を反映させた。スタッフやキャストには、長女が小児がんを患ったのを機にサバイバーの就労問題などに取り組む林三枝さん、半身不随のシンガー・ソングライター、森圭一郎さんら、多彩な経歴の人が集まる。

 「映画を通じ、障害者をよく知らない人にも多くを伝えられる。街中で声を掛けてみるとか、一歩踏み出すことにつながればうれしい」と池田さん。作品は来年公開予定という。【藤沢美由紀】

 ◇ことば【渋谷のスパ爆発事故】

 2007年6月19日、JR渋谷駅近くの女性専用温泉施設「シエスパ」の地下機械室で爆発があり、従業員3人が死亡、3人が重傷を負った。温泉に含まれるメタンガスが配管から漏出、引火したのが原因。2人が業務上過失致死傷罪で起訴され、施設の設計を担当した建設会社社員は有罪、施設運営会社の元役員は無罪が確定した。


(毎日新聞)