打楽器と舞、華やかに バリガムラン「マタハリ・トゥルビット」


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 浦添市屋富祖のスナック街。雑居ビルの間を通り抜け、階段を上がると「バリガムラン音楽スタジオ」の看板が見えてくる。ここは、インドネシア・バリ島のガムランや舞踊の実演家でつくる「マタハリ・トゥルビット」のスタジオ。美しい装飾が施された楽器が所狭しと並ぶ。

 大小さまざまな鉄琴に似た楽器の中で、最も低音を出すウガルを担当するのは鈴木良枝さん(37)。鈴木さんのひと呼吸の後、メンバーが一斉に楽器をたたき出す。途端に耳慣れない、でもどこか心地よく、華やかな異国の音楽がスタジオいっぱいに広がった。そこにきらびやかなバリ舞踊が加わる。スナックを改装したスタジオ内がバリの日常の風景に変わる瞬間だ。

「たたく」音楽
 ガムランは主にインドネシアで演奏される伝統音楽で、名称の由来は古代ジャワ語で「たたく」を意味する動詞「ガムール」。その名の通り、青銅でできた鍵盤をたたくガンサや、膝に載せて両側をたたく太鼓・クンダン、ドラのゴングなど、多彩な打楽器によるにぎやかな合奏を特徴とする。
 ガムランに楽譜や指揮はなく、ウガルやクンダンの奏者が音の強弱や緩急で演奏をリードする。

息の合った演奏
 2005年、ガムランを学んだ沖縄県立芸大と同大大学院の卒業生らが「マタハリ・トゥルビット」を結成した。インドネシア語で「太陽が昇る」を意味する。
 これまで県内各地のイベントでガムランの演奏活動を行い、来年で結成10周年を迎える。メンバーのほとんどが実際にバリへ留学しガムランを学んでおり、その息の合った演奏技術は折り紙付きだ。
 日本人のメンバーで構成する「マタハリ」には唯一、バリ人のイ・クトゥット・ジュウィタさん(38)が参加し、「ビュウ」(バリ語で「バナナ」)の愛称で親しまれている。バリから沖縄に移住後、知り合いがいない中「マタハリ」の活動を知った。「沖縄で、ガムランを通してみんなとコミュニケーションが取れてすごく楽しい。沖縄はバリと海や気候、人との距離も似ていて過ごしやすい。最高だよ」と笑う。
 すると與那城常和子(とわこ)さん(35)が「ビュウがいるおかげで『ラサ』(体の内側からにじみ出る表現)が、より本場の演奏らしくなるよね」とうなずく。そんな和気あいあいとした雰囲気が、演奏で呼吸をぴったり合わせられる秘訣(ひけつ)なのかもしれない。

バリと沖縄
 バリでのガムランは、成人式や結婚式といった通過儀礼の場や寺院での儀式などで演奏され、人々の生活に深く根差している。鈴木さんは「沖縄でも日常生活の中で、エイサーや三線などの伝統文化の音が自然に聞こえる。幼い時から伝統音楽に親しむ場があるところが、バリとよく似ている」と話す。
 「マタハリ」は来年1月、バリと沖縄の音楽、舞踊を比較して実演する公演も企画している。鈴木さんは「ガムランは沖縄の人にとっても、直感的になじみやすい音楽。ただの珍しい音楽としてではなく、今後一つのジャンルとして沖縄でも認識が広がっていったら」と期待している。
文・内間安希
写真・諸見里真利
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琉球音階と同じ音/金城厚さん(県立芸大教授、民族音楽学)
 「バリと沖縄の音楽は似ている」とよく指摘されるように、バリガムランで用いられるペロッグ音階と琉球音階は同じ音で構成される。この音階はポリネシア、インドシナ半島、インドの北部まで広がる一方、九州や本州、中国や朝鮮半島には見られない音階だ。
 琉球王国の歴史上、船が琉球と東南アジア間と行き来した事実はあるが、それは100年に満たない短い期間で、音楽までも波及した可能性は低い。それよりもはるか昔の有史以前、北と南から流入した文化が混じり合い琉球の基層文化が形成された時代に、音階やリズム、音楽に対する好みや美的感覚が南から伝わり、それがDNAのように継承されているのではないかと考えられる。
 現在、日本全国でガムランの愛好者が増える中、もともと共通した要素を持つ沖縄でガムランが演奏されるのは大変意義深いことだ。沖縄の伝統音楽の在り方にも大きなヒントを与えてくれるだろう。多くの人にその演奏を聞いてもらい、愛好者が増えることを願っている。

鈴木良枝さん(左)らによるガムランの演奏に合わせ、歓迎の踊り「ガボール」を踊る踊り手=7月18日、浦添市屋富祖
金城 厚さん(県立芸大教授、民族音楽学)