なぜ学校や住宅の近くに? 足で稼いだ情報がカギに 沖縄と重なる視点は 配備の行方―秋田と地上イージス(2)


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 「イージス・アショア」の配備先に秋田市の陸上自衛隊新屋演習場が名指しされ、地元住民の不安は募った。なぜ学校や住宅のすぐ近くが候補地なのか。電磁波の人体への影響はないのか。そもそも迎撃は可能なのか―。情報がなく賛否の判断材料も乏しい中、秋田魁(さきがけ)新報の記者たちは疑問に応えようと妥当性の検証を続けた。

 記者は地上イージスが配備されるルーマニアやポーランドにも足を運んだ。全国紙とは違い、現地に取材網はない。秋田県内にいる現地の出身者のつても頼りながら事前準備を整えた。人里離れた広大な場所で施設が運用されているのを取材して、社会地域報道部の石塚健悟記者(38)は「新屋とは環境が全く正反対だと肌で感じた」と振り返る。

 今年5月下旬、防衛省は秋田など東北3県の20カ所を検討した結果、新屋演習場を唯一の適地と結論付ける調査報告書を秋田県などに提出した。だが、社会地域報道部の松川敦志記者(47)は、新屋配備に誘導するような作為的な内容に違和感を覚えた。「ひもとけば絶対に穴がある」

 報告書では、秋田の男鹿市にある国有地を不適とした理由で、付近にそびえる本山(715メートル)を見上げた角度(仰角)が15度あり、この高さではレーダー波が遮られることを挙げていた。東北地方を代表する鳥海山(2236メートル)級の山がそこになければあり得ない値だ。

 報告書の断面図は、記憶にある男鹿の風景とは異なっていた。松川記者が分度器や三角関数を用いて計算しても、防衛省が説明する15度にならない。「やっぱりおかしい」。男鹿の現地まで車を走らせ、スマートフォンで測った太陽高度を重ねると、角度はわずか4度しかないことが判明した。専門家に依頼した調査でも同様の結果が得られた。防衛省が候補地に適さないと判断した高さの山は、そこになかった。

 「適地調査、データずさん」。記事は6月5日付の1面トップを飾った。報告書のミスは他にも複数見つかった。現地調査をせず、グーグルアースで作った断面図から定規で角度を測っていたことが原因で、防衛省は謝罪し再調査を表明した。その釈明の場の住民説明会では同省職員が居眠りし、地元軽視の姿勢に対する反発は一気に強まった。ずさんな計画を明るみにした一連の報道は、新聞協会賞に選ばれた。

 報道では、配備計画の背後にちらつく日米のミサイル防衛強化の側面にも焦点を当てた。2016年まで朝日新聞に在籍し、沖縄での取材経験があった松川記者は、秋田の現状が「沖縄の米軍基地問題をどういう射程で見るかということにも重なる」と話す。「日本のためと言いつつ、米国にとっての利益が多い話のリスクを一地域が背負うとしたら、それはおかしい」

 防衛省の再調査は本年度いっぱい続く見通しだ。河野太郎防衛相は「全ての候補地をゼロベースで考えたい」と説明している。住宅密集地に近い新屋はなぜミサイル基地の適地となったのか。記者たちが抱き続ける素朴な疑問だが、うなずける答えは見つからない。取材はきょうも続いている。
 (當山幸都)

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 弾道ミサイルをミサイルで撃ち落とす地上配備型の防衛施設「イージス・アショア」を巡って、秋田が揺れている。降りかかる国防政策に地元はどう向き合っているのか。現地を取材した。