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TikTokで730万回再生!85歳のティックトッカー 16万人フォロワーを持つ「おばーと孫」人気に迫る


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
TikTokの「南の国のおばーと孫」の動画に登場する大田吉子さん(右)と撮影・配信する孫の浩之さん

 今、沖縄で最もアツい「ユーチューバー」ならぬ「ティックトッカー」をご存じだろうか。それは国頭村に住む大田吉子さん(85)と孫の浩之さん(29)。タピオカミルクティーに挑戦したり、歌を歌ったりする吉子さんを浩之さんが撮影し「南の島のおばーと孫」とのアカウント名で、若者に人気の動画共有アプリ「TikTok」に配信している。人気は瞬く間に広がり、既に16万人のファン(フォロワー)がいる。そんなファンの一人である記者が2人に会いに行ってみた。

(田吹遥子)

近況報告のつもりで始めたら…

 TikTokを始めたのは今年8月の旧盆の時のこと。浩之さんが「いとこたちにおばあちゃんの近況を伝えよう」と考えたことがきっかけだ。というのも、木工職人の浩之さんは吉子さん宅の隣の工房に通うため吉子さんと祖父の孝全さんに頻繁に会っているが、離れて暮らすほかのいとこたちは会う機会が少ない。そんないとこたちのために、そして「どうせネットに上げるならクスっと笑えるものにしよう」と配信を始めた。

 吉子さんが流行りのタピオカミルクティーを飲んで「最高」と感動する動画は280万回再生。アニメ・ドラゴンボールを知らない吉子さんが悟空のせりふを読んだ動画は730万回も再生された。吉子さんの「沖縄方言講座」もなんとも言えないシュールさに思わず腹を抱えて笑ってしまう。

タピオカミルクティーに驚く大田吉子さんの動画。280万回再生された。

 吉子さんが知らない間に箸入れにあった箸「うめーし」を全て菓子に変えて反応を見る動画は380万回再生された。浩之さんはその広がりに「ちょっとこわいくらい」と苦笑いする。これらの動画が一気にバズったこともあり、11月はTikTokから「厳選クリエーター」に選ばれた。YouTubeチャンネルも開設し、さらにファンが増え続けている。

 さて、当の吉子さんはどう思っているのか。
記者が聞くと「よくわからん」と一言。ただ、やはり話題は広がっているようで近所の人に「よしねーねーが載っていたねって」声を掛けられるようだ。浩之さんは言う。「おばあちゃんは既に国頭のマスコットキャラみたいなもので、知名度が高いんですよ」。どういうことだろう。

“国頭のマスコットキャラ”

方言講座の動画。シュールな文章をしっかりしまくとぅばで話す大田吉子さん

 国頭村奥間生まれ、奥間育ちの吉子さん。とにかく村の行事には今でも引っ張りだこだ。運動会では大きな声で運動会の歌を歌うようリクエストがくる。「待ーちに待ちたる運動会~♪」記者の前でも歌ってくれた。民謡クラブに小学校での方言教室…修学旅行民泊の受け入れは7年間続け、243人の生徒を受け入れてきた。

 中でも「防火クラブ」はすごい。40年前、隣の家で火事が起きた際、ホースのつぎ方が分からず、延焼してしまった。「おじいにこんなのも分からんのかと言われて…」このことをきっかけに吉子さんは婦人会で「防火クラブ」を立ち上げた。防火の知識を学び、各家庭に周知する活動を40年続け、消防から表彰も受けた。今でも出初め式ではあいさつをしている。

1番辛かったのは「沖縄戦だった」と振り返る大田吉子さん

 そのエネルギーは一体どこからくるのか。記者の問いに「昔は恥じかさー(恥ずかしがり屋)で泣きみー(泣き虫)だったよ」と吉子さん。そして「この世に鍛えられたからね」との名言とともに振り返る。

 1番辛かった経験を聞くと真っ先に上げたのが「沖縄戦」。まだ10歳だった。母と姉、いとこらと共に山に避難し、空襲を逃れた。「辺戸岬から大宜味まで船がいっぱいだったよ」。食べ物がなかったが、避難してきた人たちはもっとひもじそうだったという。「あのときのことが忘れられないね」とつぶやく。戦後は奥間にあった米軍の放送局で電話交換の仕事をした。英語を使う仕事は楽しかったが「(職場にあった)クーラーが苦手で」仕事を辞めた。那覇から屋慶名までの路線バスのバスガイドをしたこともある。23歳で孝全さんと結婚し、鮮魚店を始めた。店ではアイスキャンディーも販売した。「自転車に乗ってこの鐘を鳴らして売っていたよ」

なぜか隣の部屋からすぐに取り出してきた鐘。大田鮮魚店の名前が書かれている

 孝全さんが那覇で習い、手作りで出していたというアイスキャンディーだが、味は「覚えていないね!」ときっぱり。20年営んだ鮮魚店にはたくさんの客が訪れた。「お客さんが遠いところから来てくれてうれしかった」。

 最近までは「オクマプライベートビーチ&リゾート」の調理場で働いていた。「はいこれかちゅーゆと言って出したら外国の人は分からなかったね」と楽しそうに振り返る。常連の観光客からも人気だったが、家事が忙しくなり今はやめている。「また働きたい」とまだやる気は満々だ。

“楽しませたいDNA”

鐘を鳴らす吉子さん。予想以上に大きな音が響き、浩之さんと記者は少し驚く

 吉子さんに元気の秘訣を聞くと、「松の木と同じように人間も年をとっていくでしょ。でも残り少ないさと(否定的には)絶対思わない。残された人生をどう楽しく生きていくかだと思う」と人生観を語ってくれた。そして「人に笑って喜んでもらえるのがなによりうれしい」とにっこり。

 その言葉に「もうDNAだと思っています」と浩之さん。「僕もおばあちゃんみたいにどうやったら人に楽しんでもらえるかを考えています」。配信する動画はテロップなども使いながらリズムよく仕上げているが、実は動画編集は初めて。「どうしたら分かりやすいか、伝わるかを考えることが楽しい」と声を弾ませた。

浩之さん(左)は誰かを楽しませたい気持ちは吉子さんの「DNA」を受け継いだからと話す

 浩之さんが受け継いだ「楽しませたい」精神は、吉子さんたちに対してもだ。おいしいものを見つけたら真っ先に吉子さんと孝全さんのところに持って行くという。動画で撮ったタピオカも「これなら軟らかいからおばあも大丈夫」と思い持ってきたものだとか。そんな心遣いに吉子さんは「うれしい、うれしい」と少し照れながら、「あんたは健康に気をつけなさいよ」といとおしそうに浩之さんを見つめた。

 ファンに向けてメッセージをお願いすると、吉子さんは「とにかくみんなが楽しく生活できますように。神様に祈ってますよ」と手を合わせた。仲良し2人による愛にあふれた動画配信はまだ続きそうだ。

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「南の島のおばーと孫」の2人を訪ねた琉球新報styleの「いおんとりゅうちゃんの沖縄バズ旅」の動画はこちら