知事訪米の業務委託に3億円 自民は「高すぎる」と疑問視 県、直接訴える意義を強調


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米上院軍事委員会のマケイン委員長(左から3人目)と面談する翁長雄志知事(当時、同2人目)=2015年6月、米ワシントン

 知事の訪米に合わせ、米国の元政府高官や有力議員らとの面談のアポイントメント(約束)を取り付けるなどの業務に関し、県が随意契約した米ワシントン郊外の日本系シンクタンクに支払った委託費用が5年間で3億3573万円に上っている。委託費を巡っては県議会自民党会派から「高すぎる」との声が上がっており、議会で追及が続く見通しだが、県は「県民が過重な基地負担を背負い続け、基地に起因する被害が多いことなどを知事が直接説明してきた」と意義を強調する。

 県が「ワシントン事務所駐在員活動事業委託業務」として委託しているのは、メリーランド州に本社のある「ワシントンコアL.L.C」。欧州や日本にネットワークを有するシンクタンクとして、県の他、日本政府などの業務を受託してきた。

 県基地対策課によると、これまでコア社が実現させたのは2015年に上院軍事委員会のマケイン委員長(当時)やリード副委員長(同)の他、17年のモンデール元駐日大使、18年のペリー元国防長官と翁長雄志前知事との面談など多数。会談で、翁長前知事は(1)日米安全保障体制を含む日米同盟関係がこれまで日本と東アジアの平和と安定の維持に寄与してきたと理解しているが、国土面積の約0・6%に過ぎない沖縄に在日米軍専用施設面積の約70・4%が集中するなど、県民は過重な基地負担を背負い続けている(2)基地の整理縮小が必要(3)基地に起因する被害が多い(4)米軍は銃剣とブルドーザーで住民を追い出して基地を建設した―ことなどを説明した。

 県基地対策課は「会談した関係者からは『この問題についてもっと理解を深めたい』『非常に重要な問題だと認識している』『知事の立場はよく分かった』などの発言があった」と成果を強調する。

 玉城デニー知事が19年10月に訪米した際にもコア社は知事と議員らの面談を調整。上下両院協議会が審議中だった2020会計年度国防権限法案に辺野古新基地建設計画を含む米軍再編計画の検証条項を盛り込むよう玉城知事が訴える機会が実現した。県側が注目していた「検証条項」は最終局面で削除されたが、「国防総省は180日以内に調査報告書を提出すること」との文言が盛り込まれた。

 コア社は仲井真弘多県政時代も県の業務を受託してきたが、契約料を巡っては、翁長県政以降、県議会で自民党議員が「高すぎる」と指摘するなど、追及の的になっている。自民党会派からは辺野古移設計画の見直しを米政府関係者や議員らに訴えるため設置された県ワシントン事務所についても「成果が乏しい」と存在意義を疑問視する声が上がっており、20年6月の県議選で与野党が逆転した場合、シンクタンクへの委託料だけでなくワシントン事務所そのものに関連する予算が認められない可能性もある。

 県が15年にワシントン事務所を設置した背景には「辺野古移設が普天間飛行場の危険性除去の唯一の解決策だ」(菅義偉官房長官)と強調し、沖縄の民意を顧みない日本政府の存在がある。本来外交の窓口ではない県が直接、米側の政府関係者や連邦議員、世論に訴えることで、事態を打開する狙いがある。

 県は「沖縄の基地問題の解決に向け、より一層の理解と協力を求めることが重要だ」とワシントンに拠点を置く重要性を強調した上で、「今後は国連との連携や有識者と連携した会議の開催、連邦議会関係者の沖縄への招聘(しょうへい)などにも積極的に取り組んでいく」とさらに活動の幅を広げる展望を説明した。

(松堂秀樹)