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台風襲来!そのとき沖縄県民は… 居酒屋で「ヘクトパスカル」、ソーミンチャンプルーでステイホーム?【WEBプレミアム】


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
台風による大しけで荒れる海=8月31日、読谷村の残波岬

 今年9月、旧盆の沖縄を大型台風が襲撃した。「925ヘクトパスカルの予測」。ニュースの見出しにざわつく社内。オンラインチャットも盛り上がった。

 「925で震えが来た」「久しぶりにヤバい感じがする。家やバイク飛ばされるー」

 沖縄県民にとって、ヘクトパスカル(hPa)は大事な判断基準だ。970~960あたりで気象情報や台風進路を気にし始め、950ヘクトパスカルを下回ると「学校や仕事が休みになるかも」などと警戒を一気に強める。数値でだいたいの強さがわかるのだ。

 このヘクトパスカル、県外の人にはなじみがないよう。東京出身の記者は「居酒屋でも皆が『ヘクトパスカル』を連呼するのが新鮮だった」と言い、ウチナーンチュ記者は「県外では通じなくて驚いた」と言う。

 沖縄県民に定着している「ヘクトパスカル」とは…?

使われなくなった「ミリバール」

 ヘクトパスカルは気圧の単位のこと。「パスカルの原理」で知られるフランスの哲学者で物理学者のパスカルが名前の由来で、中心気圧の数字が低くなるほど台風は強くなる。

 気象庁の統計資料によると、上陸時の中心気圧が最も低かったのは1961年の「第二室戸台風」で925ヘクトパスカルだった。

 気圧の単位はかつてヘクトパスカルではなく「mbar(ミリバール)」が使われていたのをご存じだろうか。編集部で「懐かしい!」「何それ?」と反応が分かれたように、一定の世代にはこちらのほうがなじみ深い単位だ。

 単位が切り替わったのは1992年12月1日。国際基準の「国際単位系」に合わせるため、戦後から使われ続けてきた「ミリバール」をやめることになった。名前は違うが、数値としては1hPa=1mbar。

 当時の琉球新報コラムには「発音に慣れるまではややこしい」とある。昭和世代なら今も共感するかもしれない。

琉球新報で最後に掲載された「ミリバール」表記の台風進路図=1992年11月30日

 ヘクトパスカル派と「2大派閥」を形成するのが風速派。こちらの場合、沖縄地方で暴風警報が出される風速25メートルを基準にする人が多そうだ。

 編集部のやりとりでも、「25メートル→まぁまぁ警戒だな。30メートル超→確実に学校休みだな。40メートル→あ、やばいやつだ。って感じで覚えていました」といった反応があった。

ウチナーンチュが愛する定番料理
 

台風料理の定番、ソーミンチャンプルー

 台風慣れしている沖縄県民。前述のヘクトパスカル以外にも「あるある」が数多く存在する。

 例えば「ソーミンチャンプルー」と「ヒラヤーチー」は台風の定番料理。ソーミンはそうめんのこと、ヒラヤーチーは平焼きの意味で沖縄風お好み焼きとでもいおうか。なぜこれらが強風の中でとる食事のツートップなのか。

インスタグラムに「#ひらやーちー」のハッシュタグをつけて上げられた写真

 そうめんや、ヒラヤーチーの材料となる小麦粉は常温保存でき、普段から買い置きしている家庭が多い。ほかの材料もツナ缶、油、塩など、停電時でも冷蔵庫を開けず簡単調理で済む。

 だが、沖縄国際大などで非常勤講師を務め、沖縄の文化歴史に詳しい稲福政斉さんによるとそれだけではない。

 「戦後になってツナ缶などの缶詰類が市場に出回るようになり、来客をもてなす料理としてよくソーミンチャンプルーが作られた。それとツナ缶は旧盆のお中元としてもよくもらい、ちょうど台風の時期に家にあることが多い」と言う。

老若男女が駆け込む先は…

 もうひとつ、沖縄台風あるあるの鉄板ネタといえば「台風が接近するとレンタルDVDショップが混雑する」というもの。実際はどうなのか。

 TSUTAYA那覇新都心店によると、台風最接近の前日は午前中から夜遅い時間まで絶え間なく客が訪れ、通常の2~3倍になるという。問い合わせも増えるため従業員を増やして対応するという。

 店長の仲村渠達矢さんは「老若男女が来店する。返却されたDVDを素早く棚に戻す作業をしっかりしている」と語る。

台風が去った後、洗車の列ができるガソリンスタンド=2018年7月、北中城村

 台風あるあるは他にもあり、一部を列挙してみる。

・暴風警報が出る前に木を刈り込む近所のおじさんがいる

・巣ごもりに備えてスーパーの棚がすっからかんになり、SNSに画像が上がる

・台風接近の朝はまずバスやモノレールの運行状況、休校情報をチェックする

・台風が去った後はガソリンスタンドに洗車の列ができる

 などなど…

消えゆく風景

「隔日断水」が行われ、洗面器やバケツなど家中の容器に水をためる親子=1977年8月、那覇市内

 最後にひと昔前の「あるある」も紹介したい。

 台風が接近すると、強風で電線が切断されるなどして停電が起こる。夏場はエアコンが使えず蒸し風呂状態。冷蔵庫内の食品を腐らせないよう開け閉めにも細心の注意が必要だ。台風の夜を過ごすお供に、ロウソク・懐中電灯・ラジオは各家庭の必需品だった。

 停電と並んで困ったのが断水。ペットボトルの飲料水が普及していない時代、断水前にはやかんや鍋、浴槽などに水をためて備えた。家の屋上に球体や円柱形の水タンクがあるのも、おなじみの風景だ。

家々の屋根に設置された貯水タンク=沖縄本島中部

 今は沖縄本島でダムが増設されるなど水事情が向上。断水は減り、タンクを設置する家も少なくなってきた。

 とはいえ、台風で水道管が損傷したり、送水ポンプの電源が落ちたりして断水につながる可能性はある。那覇市上下水道局の担当者は「台風が来る前に接続管や送水ポンプの点検・整備を」と呼び掛けている。

(大城周子、慶田城七瀬、上里あやめ)